田舎姫

□第十一話
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「あーあ、参ったなぁ。」

僕は地図が載っている紙を見てため息を吐いた。地図はそこそこ細かく書いてあるけど、さっぱり分からない。つまり、迷ったってこと。

ここは山が多くて携帯も使えない。

全く、はじめ君も良くこんな所住めるよね。いくら母親の為だと言っても、僕だったら絶対無理。

で、今僕はど田舎の田んぼ道を歩いているわけだけど、周りに人はいないし、どうしようかな。

「あ、あの!」

「?」

その時、不意に後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには僕と歳が近そうな女の子が立っていた。

その子は、白い膝丈のワンピースに薄い水色のカーディガンを羽織っていて、一言で言えばとにかく質素だった。
でも、そこがその子にはとても似合っていて、都会じゃ絶対見ないタイプだなと思った。
田舎者って、こういう感じの子を言うのかな。

「何か用かな?」

「あ、えっと、今迷っていらっしゃいます?」

「は?あ、うん。」

彼女の問い掛けに僕は一瞬良く分からなかったけど、今自分が迷子だということを思い出して、持っていた地図を取り出した。

「あのさ、僕ここに行きたいんだけど、分かる?」

「えーと・・・あっ!斎藤先輩の家だ。」

彼女はその地図を見ると、少し驚いたように言った。彼女の口からはじめ君の名前が出てきて僕も少し驚いた。

「はじめ君のこと知ってるの?」

「はい、同じ学校なんです。先輩にはとてもお世話になってます。」

「へぇ。」

こんな偶然もあるんだ。とにかく助かった。
彼女は『案内します。』と言って歩き出したので、僕も一緒に歩き出した。

「僕は沖田 総司。はじめ君とは、前の学校の同級生だよ。」

「そうなんですか。私は宇奈月 琴音です。風浜高校の一年生です。」

そう言って、『宜しくお願いします』と頭を下げる琴音ちゃんはとても上品で純粋に綺麗だと思った。うちの学校じゃ、まずいないね。

だからかな。
この時、僕はもっと彼女のことを知りたくなった。

「あの、沖田さんは斎藤先輩の家に遊びに来たんですか?」

「んー、まぁそうも言えるけど、本当の目的は打ち上げだよ。」

「打ち上げ?」

そう、先週剣道の全国大会があって、僕の学校が優勝した。ちなみに、はじめ君はこっちの学校には剣道部がないみたいだから、特別に僕たちのチームとして出場した。
だから、今日ははじめ君の家で皆で打ち上げをすることになっていた。

僕は少し用事があったから、予め地図を預かっておいて一人でくるつもりだったんだけど、その結果迷っちゃったんだよね。

そのことを話すと、琴音ちゃんは目を見開いた。

「ぜ、全国大会で優勝しちゃったんですか!?」

「うん。でも、もともと名門校だから。桜華学園って知ってる?」

「おうか?・・・いえ、すいません、分からないです。私、東京とか行ったことないので。」

「そっか。」

その時、ふと風が吹いた。もう夏みたいな熱風ではなかったから、もう秋なんだなぁと感じた。

でも、隣で歩いている琴音ちゃんを見た瞬間、そんな呑気な感想は一気に吹っ飛んだ。
今の風で琴音ちゃんの長くて真っすぐな黒い髪が流れるように揺れていて、僕は目を奪われた。

本当に絵のように綺麗だった。

「沖田先輩、どうかしました?私に何かついていますか?」

「い、いや、何でもないよ。
それより、琴音ちゃんはさっきまで何してたの?僕を案内してくれてるけど、何かすることがあったんじゃない?」

「いや、大丈夫ですよ。ただ、散歩していただけですから。」

「散歩?」

僕は思わず聞き返した。もし、これが別の子だったら、ババ臭いって言ってたかもしれない。
でも、琴音ちゃんは『はい!』と、とても嬉しそうに返事をして、その顔がすごく可愛いかったから、何も言えなくなってしまった。

「私、この町が大好きで、暇があればいつも散歩しているんです。」

「そうなんだ。飽きないの?」

「飽きませんよ。だって、いつも新しい発見が沢山ありますから。」

「へぇ。琴音ちゃんって、可愛いね。」

本当に琴音ちゃんはこの町が大好きみたい。で、それを夢中に話すところも本当に可愛くて、正直に言うと彼女は顔を真っ赤にした。

「お、沖田さん!?か、可愛いなんて、全然そんなことないですっ!」

「ううん、可愛いよ。本当に可愛い。そうやって慌ててるところも、さ。」

「か、からかわないで下さいっ!」

「酷いなぁ。僕は本当のことを言っただけなのに。」

「も、もう・・・!」

琴音ちゃんはそう言うと、顔を真っ赤にしながら頬を膨らませて僕を睨んできた。
でも、僕にとってはそんなの全然怖くなくて、むしろ可愛くて笑いそうになった。

こんなに女の子一人に夢中になったのは初めてだった。

でも、僕は戸惑うことなく気付いた。

僕は琴音ちゃんが好きなんだ。

こういうの、一目惚れって言うんだよね。

流石に大笑いするのはかわいそうだったから、代わりに彼女の頭を撫でた。

「ごめんごめん。でも、可愛いっていうのは本当だから。」

「あ、ありがとうございます・・・。」

僕がそう言うと、琴音ちゃんは恥ずかしそうにお礼を言った。
うん、素直なところもいいよね。

そんな感想を抱いていると、目の前に一軒家が見えてきた。

「あ、あれです。」

琴音ちゃんはそれを見ると、そこに指を差した。その一軒家がはじめ君の家らしい。
ふーん、まずまずじゃない?

そんなことより、もう琴音ちゃんとお別れなのが嫌だな。

「着きましたよ。」

「うん、ありがとう。
琴音ちゃん、せっかくだから携帯のアドレス交換しない?」

やっぱりここは連絡先を聞いておきたい。でも、琴音ちゃんは困った顔をした。

「ごめんなさい、この町は携帯が使えないから、持ってないんです。
あの、家の番号でもいいですか?」

「あ、そっか。じゃあ、家の番号教えてくれる?」

そういえば、ここ携帯使えないのすっかり忘れてた。でも、家の電話を教えてくれたから、一応繋がりはできた。

「あのさ、琴音ちゃんとはまたどこかで会いたいんだ。だから、夜とかあまり遅くない時に電話していい?」

「あ、はい。大丈夫です。」

「うん、良かった。じゃあ、今日は本当にありがとう。」

「こちらこそ、楽しかったです。
連絡、楽しみにしてますね。」

そう言って軽く会釈して琴音ちゃんは去っていった。
本当は最後の言葉を聞いて思わず抱きしめたくなったんだけど、何とかこらえた。

連絡楽しみにしてる、って何?僕、期待しちゃうよ?

まぁ、それはともかく僕は家のインターホンを鳴らした。






―おまけ―

「遅かったな、総司。」

「どうせ道に迷ったんだろ?」

「土方さんは黙って下さい。」

リビングに行くと、そこでは既に打ち上げが始まっていて、焼肉の鉄板が乗ったテーブルを皆が囲んで座っていた。

左之さんと土方さんが僕に反応したけど、相変わらず土方さんはムカつく。
他では平助と新八さんが肉を取り合っていて、その隣で千鶴ちゃんがそれを慌てて止めていた。

僕は・・・おっと、はじめ君の隣だ。
これはチャンスだね。丁度、彼に言いたいことがあったんだ。

僕は席に着くと、早速話し掛けた。

「ねぇ、はじめ君、僕ね途中で道に迷ったんだ。」

「やはり、そうだったか。だから俺が迎えに行くと言ったのに、あんたが断るからだ。」

「だって、男二人で田舎道歩くなんて嫌だよ。」

「意味が分からん。」

「そんなことより、途中で可愛い子が僕に話し掛けてくれて、ここまで案内してくれたんだ。

本当に可愛いよね、

琴音ちゃん。」

「ぶっ!?」

そして、琴音ちゃんの名前を出すと、案の定はじめ君は飲んでいたお茶を吹いた。まぁ、予想はしていたけど、はじめ君汚い。

「な、何故宇奈月を!?」

「だから、今言ったでしょ?ここまで案内してもらったんだよ。

彼女って本当に可愛くてさ、僕、一目惚れしたんだ。」

「!?」

すると、はじめ君は目を見開いた。あーあ、これも予想してたことだけど、やっぱり残念だな。
だって、はじめ君がライバルって、結構面倒だよ。

でも、負けるつもりはない。

「悪いけど、はじめ君には渡さないよ。」

「・・・俺も、あんたに譲るつもりはない。」

僕たちはお互いに睨みあった。まるで、剣道の試合みたいな緊張感がはしった。

やっぱり、はじめ君も本気らしい。

「どうかな。確かに、はじめ君は琴音ちゃんと同じ学校でアドバンテージがあるかもしれないけどさ、僕ははじめ君よりも数倍は積極的だから、油断してると危ないよ。
彼女の家の番号も教えてもらったしね。」

「なっ!?」

はじめ君がこんな反応をするってことは、まだ琴音ちゃんの連絡先知らないんだろうね。本当、彼は積極性がないからなぁ。
でも、僕にはその方が好都合だ。

「おい、総司と斎藤、なに喧嘩してやがる。」

「いーえ、何でもありませんよ。ね、はじめ君?」

「あ、はい、何でもありません。すいませんでした。」

うるさい土方さんが怪しんでたから、取り敢えず僕たちは肉を食べ始めた。

でも、はじめ君は僕がライバルと分かってから、急に目付きが鋭くなった。(僕に対してだけだけど。)

ミニゲームだって、僕が相手だと急にむきになって本気なんか出すから、ゲームがゲームじゃなくなってた。

だけど、そっちがその気なら、僕も受けて立つよ。

お手柔らかにね

・・・なんて。






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