田舎姫
□第十六話
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「ねぇねぇ、もうすぐ文化祭たね!」
十月になり、制服は黒い冬服になった。
いつも通り、朝マキちゃんたちと話していると、文化祭の話題になった。
「そういえば、そうだね。私たちのクラスはこの前喫茶店に決まったし、そろそろ準備始まるよね。」
ミクちゃんの言葉に私も頷いた。
文化祭は十月の中旬の土日で、大体やることは以前にクラスで決めたから、そろそろ準備が始まるはず。
「・・・で、琴音はどうするわけ?」
「どうって?」
「何言ってんのよ!斎藤先輩とどうするかに決まっとるがな!」
「ユミ、うっさい。てか、うざい。」
ところで、と言うようにマキちゃんが私に話をふると、よく理解できていない私にユミちゃんが叫び、それにカナちゃんがスパンと頭を叩いた。
「はじめ先輩と?うーん、迷惑じゃないかなぁ?」
「迷惑なわけないじゃん!だって、名前で呼び合う仲になってるんだよ?あともう一押しだよね!」
「一押しって、何を?」
「・・・そういえば、この子超鈍感だったわ。」
とにかくちゃんと誘いなさいよ!、とマキちゃんから強く言われたところで予鈴が鳴り、私たちの会話は終了した。
友達の強い勧めもあって私は先輩を誘うべく、彼の教室の前にいる。
すると、先輩は私に気付いてすぐに来てくれた。
「どうした?」
「あの、もうすぐ文化祭ですよね。それで、迷惑でなければ、土日のどちらか一緒に回りませんか?」
「なっ・・・」
けれど、私がそう言うと先輩は目を見開いて固まってしまった。
「先輩?」
「・・・それは、俺から誘う予定だったのだが・・・。」
「へ?」
先輩が何かもごもご言っていたが、何を言っているのか聞こえなかったので聞き返すと、先輩は慌てるように首を横に振った。
「いや、何でもない。
では、日曜日に一緒に回ろう。土曜日は母さんを病院に連れて行く故、学校は休む予定なのだ。」
「そうなんですか。分かりました、日曜日ですね?
あと、クラスのシフトがあるので、後日また時間の調整とかしたいんですけど・・・。」
「分かった。」
こうして、私は先輩を誘うことができた。
風浜高校の文化祭は地元の人くらいしか来ないけれど、去年私が中学生として行った時は結構盛り上がっていたから今年も楽しくなるはず。
先輩と回るのが楽しみだな。
その日の夜、夕飯を食べ終わって部屋でくつろいでいると、急に階段が騒がしくなり、お母さんがノックもせずに慌てて入ってきた。
「おっ、おおおっ、」
「ちょっ、大丈夫!?」
異様に『お』を繰り返すお母さんに私まで焦ったところで、電話の子機を差し出された。
「お、沖田さんという方から電話よ!」
「え、総司さんが?」
何だろう、と思いつつ子機を受け取ると、お母さんは逃げるように出ていってしまった。
お母さんの様子は気になったけれど、総司さんを待たせるわけにもいかないので子機を耳にあてると、物凄い笑いが響いた。
『あはははっ!琴音ちゃんのお母さんって面白いね!』
「え、そうですか?」
『うん。僕の名前を聞いた途端、すごい焦り様でさ、最初は僕まで焦ったよ。』
「確かに、私も今そうでした。なんか、驚かせたみたいですいません・・・。」
『ううん、気にしないで。逆に楽しませてもらったから。』
そう言ってまたクスクス笑いながら、それでね、と話を切り出した。
『本題なんだけど、琴音ちゃんの学校って文化祭とかって、もう終わっちゃった?』
「文化祭でしたら、丁度今月の中旬にあります。」
『そっか、なら良かった。ねぇ、それって日曜とか一緒に回れない?』
「えっ、偶然ですね。今日、丁度はじめ先輩と日曜日に約束したんですよ。」
はじめ先輩と総司さんは息が合っているのではと思った。
三人で回っても面白そうだから、私は大丈夫ですと言おうとすると、総司さんは少し驚いたように口を開いた。
『えっ、はじめ君と日曜に約束したの?』
「はい。ですから、三人でどうですか?」
『あーあ。なーんだ、先越されちゃったなぁ。』
「えっ?」
『ううん、こっちの話。
それなら僕、土曜に行くよ。その日は大丈夫?』
「だ、大丈夫ですけど、はじめ先輩と一緒でなくて大丈夫ですか?」
『え、何でそこではじめ君が出てくるの?』
「だって、お二人は友達だから、一緒に回りたいんじゃないですか?」
てっきり喜ぶかと思えば、総司さんはあっさりと日にちを変更してしまって、私は不思議に思った。
『それはむしろ逆だよ。はじめ君がいるから、僕は土曜にするの。』
「えっ、もしかして仲悪いんですか?」
総司さんがそんな言い方をするので、驚いて恐る恐る聞いてみると、総司さんはため息を吐いた。
『違う違う。いい?僕は琴音ちゃんと二人で回りたいの。別にはじめ君が嫌いだからとかじゃないよ。』
「私と、二人で?」
『そう。二人だけで、ね?』
「分かり、ました・・・。」
何だろう、総司さんの言葉に対して私は自分の身体に違和感を感じた。
何となく胸辺りが詰まるような感覚だった。
あの後、シフト関係で後日また連絡することを約束し、私は電話を切った。
「ちょっと琴音、沖田さんって誰!?」
子機を戻しに下に降りると、お母さんが物凄い勢いで迫ってきた。
「この前言わなかったっけ?斎藤先輩の前の学校の同級生で友達なんだって。
すごく良い人だよ。」
「それが、今の子だったの!?そんなぁ!?」
「へ?」
『あんなに声が格好良い子だとは思わなかったわ!これじゃ斎藤君本当に危ないわよー!!』
などと心の中で叫んでいるなんて知るはずもなく、私は変なお母さん、と一言言って部屋に戻った。
さて、文化祭はどう回ろうか。
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