田舎姫

□第十七話
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「いらっしゃいませー!」

いよいよ文化祭の日がやってきた。
私は今クラスの仕事の真っ最中。

喫茶店といっても、市販のお菓子や飲み物を提供するものだけど、お客は結構入っている。
因みに、クラスの皆の服装は制服の上にオレンジ色のエプロンという感じ。少し地味かもしれないけど、私は丁度良いと思う。


「いいい、いらっしゃいませ!」

そんな時、一人の子がすごく吃った声が聞こえたかと思うと、クラス内で次々に悲鳴が上がった。

私は裏でお菓子を用意しながら何だろう、と思っていると、ミクちゃんが慌てて入ってきた。

「ちょっと琴音、どういうこと!?」

「へ?」

「なんか、超イケメンの男の人があんたを呼んでるのよ!」

「えっ、誰?」

「知らないわよ!とにかく、斎藤先輩に負けないくらいの超イケメンで、私たちもお客も混乱してるの!何とかして!」

何とかして、と言われても私は今お菓子を準備しているんだけど、と言えば、そんなの私がやるから!と、とにかく興奮しているミクちゃんに無理矢理表に出された。

けれど、ミクちゃんの言う通り、接待役とお客の視線は皆一つに集中していた。
私もその視線の先を追ってみると―――

「総司さん?」

「あっ、琴音ちゃん。」

そこには、テーブル代わりの机の席に一人で座っている総司さんがいた。
確かに、今の時間帯は接待役が皆女の子で、お客も女の子や女の人しかいないので、結構目立っている。
私は彼に手を振られ、誘われるように近づいた。

「あの、私午前中はシフトが入っているんですけど・・・。」

私があまり驚かないのは、前から約束していたから。けれど、それにしても来るのは早い。
私のシフトは午前中に全て入っていたので、待ち合わせは十二時半にしたはずだ。

「うん、分かってるよ。でも、琴音ちゃんの接待も見たかったから、早めに来ちゃった。」

「は、はぁ・・・。」

「エプロン姿も可愛いよ。」

「ちょっ、からかわないで下さい!」

「からかってないよ。本当に可愛い。」

「〜〜〜〜〜っ!」

今の私は真っ赤な顔をしていると思う。だって、人前であんなことを言うんだもの。
多分、周りも私たちのことを変な顔で見ていると思う。
非常に恥ずかしい。

「と、とにかく、ご注文は!?」

「んー、とりあえずアイスティー貰おうかな。」

「か、かしこまりました!」

注文を聞いて、逃げるように裏に入った。すると、案の定クラスの皆が私に迫ってきた。

『ちょっと、あの人誰!?』

『超イケメンじゃん!』

『ていうか、付き合ってるのって、斎藤先輩じゃなかった!?』

「ちょっとちょっと、落ち着いて!というか、私はじめ先輩とは付き合ってないから!」

私はすぐに皆を落ち着かせ、簡潔に事情を話した。

「あの人は沖田 総司さんって言って、はじめ先輩の前の学校の友達なの。
私はたまたまこの前知り合って、少し連絡を取り合っているだけ。
本当にそれだけだから!
総司さんが変なことを言ってきたのは、人をからかうのが好きだからなの!」

そう言い放つと、皆は私の勢いに圧倒されるように頷き、また仕事に戻っていった。
なんだか、どっと疲れが出てきた。


注文のアイスティーを持っていくと、総司さんはありがとう、と微笑んでくれた。

「あのさ、僕はこの後は校内をぶらぶらしてるから、十二時半になったら前に約束した場所に来てね。」

「分かりました。」

「午後はずっと一緒にいようね。」

「は、はい。」

今思ったけれど、総司さんの台詞は心臓に悪い気がする。先ほどから、彼が言葉を口にするたびに私は心臓が跳ね上がるような感覚に襲われる。




これは、一体何?





十二時二十分、やっと全て仕事が終わり、私は待ち合わせ場所に急いだ。

昇降口前のエントランスに行くと、総司さんが壁に背中をつけて立っていた。
周りの視線に少し困っているようで、私は急いで駆け寄った。

「すいません、お待たせしました!」

「あ、琴音ちゃん早いね。仕事お疲れ様。」

総司さんはそう言うと、私の手を握った。

「じゃ、行こうか。」

「は、はい・・・。」

私は歩きながら総司さんの手の温もりを感じて、ずっとドキドキしていた。
きっと、はぐれないように気を遣ってくれているのだと思う。総司さんは本当に良い人だ。



総司さんも私もお昼がまだだったので、焼きそばとたこ焼きを屋台で買って、外の人通りの少ない所でベンチに座って食べた。
因みに、私が焼きそばで総司さんがたこ焼きだ。

「琴音ちゃん、一つ食べる?」

「えっ、いいんですか?」

「うん、いいよ。はい、あーんして。」

「・・・・。」

一つくれると聞いて、私が自分の割り箸で貰おうとする前に、総司さんは爪楊枝でたこ焼きを刺すと、それを私の前まで持ってきた。
これは、どうすれば良いのだろう。

「総司さん、これは?」

「うん、だから、口を開けてよ。僕が食べさせてあげる。」

「え、えぇっ?」

「ほら、落ちちゃうから早く。」

私は焦ったけれど、総司さんに急かされて、仕方なく口を開けた。
人に見られてはいないけど、とても恥ずかしい。

「熱っ!」

口に入ったたこ焼きは熱くて頑張って口を動かして飲み込んだ。やっぱりたこ焼きも美味しい。

「美味しかったです。ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

それから私は貰うだけでは不公平だと思い、お礼を言った後で焼きそばの入ったパックを差し出した。

「総司さんも焼きそばどうぞ。」

「え?ううん、僕は大丈夫だよ。」

「でも、私だけいただくのも・・・」

「気にしなくていいよ。僕は少食だから。・・・でも、せっかくだからこっちを貰おうかな。」

総司さんはそう言って、急に私に顔を近付けてきたかと思うと、口の端に生暖かい感触を感じた。

「口の端についてる青海苔を貰ったよ。ごちそうさま。」

「え・・・えぇ!?」

そう、今私は総司さんに舐められたのだ、口の端を。私が軽くパニックに陥っていると、総司さんはクスクスと笑った。

「顔を真っ赤にしちゃって、琴音ちゃんは本当に可愛いね。」

「も、もうっ!またからかったんですね!?」

「うーん、からかってはいないけどね。」

私は本当に恥ずかしくて、しばらく顔が熱かった。本当に周りに人がいなくて良かった。







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