田舎姫
□+α
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「琴音、口の端に海苔がついている。」
「えっ、どこで―――ひゃっ!?」
お昼になり、私とはじめ先輩は校内のラウンジでご飯を食べていた。
私がおにぎりを食べた後、先輩に海苔がついていることを指摘され、それを取ろうとした時だった。
急に先輩の顔が目の前まで近づいて、私の口の端についている海苔がペロリと舐めとられた。
私は思わず変な声を出してしまった。
「は、はじめ先輩!?」
「済まない。気になったので、つい。」
「ひ、人が見てます!」
そう、ここには昼時ということもあって沢山の人がいる。そんな中であんなことをされた所為で、周りから変に注目を浴びてしまっている。
けれど、はじめ先輩は――
「ならば、見せつけてやればいい。」
ということを、けろりと言ってのけた。
・・・あの、はじめ先輩、何か性格変わってませんか?
その後もはじめ先輩は今までとは打って変わった行動に出た。
――移動中
「琴音。」
「え、あっ・・・」
名前を呼ばれたと同時に右手に温かい感触があり、見るとはじめ先輩の左手が私の右手を握っていた。
「せ、先輩・・・?」
「はぐれぬように、だ。
・・・琴音の手は、可愛いな。」
「はぇ・・・っ//」
そこで、顔がボンッと赤くなった。
――アイスクリームの屋台にて
「琴音、抹茶味を一口食べてみないか?」
「いいんですか?」
「あぁ。・・・ほら。」
「へ?」
先輩はそう言うと、一口分のアイスを掬って、それを私の口の前まで持ってきた。
目の前に差し出されたスプーンに、どうすれば良いか困っていると・・・
「ほら、早くあーんしろ。溶けてしまう。」
「ほぇっ・・・//」
んでもって、
「俺も、あんたの苺味が欲しい。俺に食べさせてくれ。」
「ひゃわわっ・・・//」
そう言って、目を瞑って口を開けて待っているはじめ先輩に再び顔がボンッと赤くなった。
などなど、今日は心臓がいくつあっても足りないくらいドキドキさせられた一日だった。
「き、今日は、ありがとうございましたっ。」
後夜祭で、皆が校庭に集まっている頃、私とはじめ先輩は校庭の隅で体育座りをしていた。
「俺も、本当に楽しかった。これも、あんたと一緒だったからだ。
こちらこそ、ありがとう。」
「い、いえっ、お礼なんて・・・っ!というか、本当に楽しかったですか?
やっぱり田舎の学校の文化祭だし、きっとがっかりするところもあったんじゃないかって思って・・・。」
「いや、そんなことは断じてない。
それに、実を言うと、この文化祭がどのようなものであろうと、俺にはどうでも良かった。」
「え?」
「つまり、俺はあんたと一緒にいられれば、それで十分だった。
だから、今日の文化祭を満喫できた、ということだ。」
「は、はじめ先輩・・・っ//」
またまた、本日何度目かの甘い台詞に私は顔を赤くした。
本当に、今日のはじめ先輩はどうしたのだろう。
「琴音。」
「はい、なんで―――きゃっ!?」
その時、先輩に呼ばれたかと思うと、急に腕を引っ張られ、思わず先輩の胸にもたれかかってしまった。
そして私が離れようとする前に先輩の腕が私の腰に回され、私は動けなくなった。
「せ、せんぱ――「しばらく、このままでは、駄目か?」
「先輩・・・?」
「・・・駄目か?」
「・・・いえ、大丈夫、です。」
すごく恥ずかしかったけれど、先輩に小声で聞かれ、断れなくなってしまった。
私がこくんと頷いたのを合図に、はじめ先輩のもう片方の手が私の頭を優しく撫でた。
それが私には気持ちよくて、何となく切なくて・・・、私はそっと目を閉じた。
それから、結局私たちは後夜祭が終わるまでずっとこのままだった。
間、会話は全くなかったけれど、とても心地よい時間だった。
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