田舎姫

□第十九話
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――日曜日

それは、桜華学園剣道部での出来事。





バシッ



バシッ



バシンッ



バシッ



「はぁっ・・・はぁっ・・・。」

「はっ・・・はっ・・・くっ、まだだっ・・・!」

「奇遇だねっ・・・、僕もだよ・・・っ!」

そして、また再び竹刀が激しくぶつかり合う。それを、周りの部員たちは怯えた目で見つめていた。

『なあ、沖田先輩と斎藤先輩、一体どうしちまったんだよ・・・。』

『いや、俺だって知らねぇよ・・・。』

『俺、恐ろしくて最近全然近付けないんだけと・・・。』

『俺も。』

『つーか、他の先輩方もそうらしいぜ?』

一年の部員らがヒソヒソと話す中、道場内にいつもの怒鳴り声が聞こえた。

「総司、斎藤!!お前らまたやってんのか!?いい加減にしろっ!!」

そう怒鳴るのは、剣道部顧問の土方 歳三。二人を止められるのは彼だけだ。

「何言ってるんですか土方さん、これは練習試合だっていつも言ってるじゃないですか。」

「そうです。俺たちは練習試合を行っているだけです。」

「これのどこが練習試合だ!?放つ殺気が尋常じゃねぇんだよ!
それに総司!学校では土方先生だ!」

「やだなぁ、実戦も兼ねてですよ、土方センセっ!」

「そ、総司ぃぃぃぃ!!」

ここまではいつものことだ。

そう、ここまでは。


今日はいつもとは違って、平助が土方を手招きした。

「土方先生、ちょっと・・・」

「あぁ?」

「いいから、ちょっと来てよ!」

そう言って道場の隅に二人は移動した。

「で、何だよ?」

「俺さ、分かっちゃったんだよね。二人が喧嘩してる理由。」

「何だと!?」

「ちょっ、しーーーっ!!」

平助は叫んだ土方を慌てて黙らせた。いちいち叫ばれたら、隅に移動した意味がない。

「で、その理由は何なんだ?」

「うわっ!?ちょっ、驚かさないでよ左之さん!」

そこへ、ひょっこりと顔を出したのは土方と同じく顧問の原田 左之助。土方とは違って比較的穏やかな性格だ。

「悪ぃ悪ぃ、俺も色々と気になってたからな。・・・で、理由は何なんだ?」

「えーと、驚くなよ?


あのさ、二人には好きな女の子がいるんだ。しかも、同じ人。」

「はぁ!?」

「だから、いちいち叫ばないでよ!」

今度こそ土方は叫んだ。彼にとって、平助の言ったことは予想外なことだった。

「だから、あいつらはあんなに険悪ムードなわけか。」

「あれ、左之さんは驚かないの?」

勿論、叫んで欲しかったわけではないが、それにしても納得するのが早過ぎる。

「あぁ。ほとんどそれ絡みだとは思ってたからな。」

なるほど、流石左之さん、と平助が思っている傍ら、土方はため息を吐いた。

「ったく、結局は女絡みかよ。くだらねぇな。」

「くだらないって何ですか?土方先生。」

「いくら尊敬する土方先生であっても、今の言葉は許せません。」

「まっ、僕は全く尊敬はしてないけどね。」

「そ、総司!はじめ君!」

すると、いつの間にか総司と斎藤が三人の真後ろに立っていて、二人は同じ方向(つまり土方)に殺気立っていた。

あの斎藤までもが土方に殺気を放っているので、平助と原田は驚いた。

「ま、まぁまぁ落ち着けって。で、その女ってのはどんな奴なんだ?平助。」

「え、俺!?
えーと、とにかくすげぇお淑やかで、すげぇいい奴・・・かなぁ?」

原田が二人を落ち着かせ、平助に二人が惚れている女の子のことを尋ねた。

平助が二人を刺激しないように必死に言葉を選んで答えると、総司はニッコリと笑った。

「うん、平助にしては上出来じゃない?
・・・でも、




惚れないでね?」

「ほ、惚れねぇって!」

今度は矛先が平助に向けられそうになり、平助は必死に否定する。

「はぁ・・・お前らの言い分は分かった。
だが、今は部活だ。部活に私情は持ってくるな。」

「「無理(です)。」」

「てめぇら・・・」

二人の即答に土方は再び青筋を立てる。その時、原田が横から口を開いた。

「じゃあよ、こうすりゃ良いんじゃねぇか?
今度、十二月の中旬に大会がある。その機会に決着をつける、ってのはどうだ?」

「お、おい原田!?」

「じゃねぇと、いつまで経っても険悪ムードのままじゃねぇか。
幸い、その大会は個人戦だけだしよ。

まぁ、女の子の意見は勿論無視しちゃいけねぇが、とりあえず勝者はその子を落とす権利を得られる。と、こういうことだ。」

「うん、悪くないね。」

「あぁ、そろそろ決着をつけるべきだとは思っていた。」

「んじゃ、決まりだな。」





――決戦は、約二ヶ月後だ。







こうして、二人の戦いが始まろうとしていた。






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