人間になりたい猫

□縁の下の力持ち
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「今日から4日間、臨時マネージャーを務めさせていただく、2年の一条 成琉です。

よろしくお願いします。」



連休1日目。



早速私は男子バスケ部の臨時マネージャーとして、活動を開始した。



とは言っても、右も左も分からない状況なので、まずはさつきちゃんに何をすればよいか指示をもらう。



「じゃあ、まずは一緒にドリンクを作っちゃおう。」



ドリンク作り。



この作業が一番大変なのだそうだ。



何故なら、とても大きなタンク一杯の量を作る上に、1軍から3軍まで合計3つ作らなければならないからだ。



確かに、これは2人で行ったほうが効率がいいだろう。



私もさつきちゃんから粉と水の量を教わり、せっせとドリンクを作った。







「よし、できた。成琉ちゃん、そっちはどう?」



「うん、私の方もできた。これ、今運んだ方がいい?」



「あ、うん。でも、一緒に運ぶから、その前にタオルの準備を・・・」



「それなら、ドリンクの方は私に任せて。」



私はそう言ってさつきちゃんの言葉を遮りつつ、3つのタンクを一度に持った。



すると、さつきちゃんは目を見開いた。



「成琉ちゃん!?

ちょ、それ重いよ!2人掛かりでも大変なのに!?」



彼女が驚くのも無理はない。



けれど、私はカカ族でもあるが故に、たとえ人間の姿になって戦闘能力がなくなったとしても、普通の人間と比べたらやはり特殊なのだ。



その証拠に、私はとても力持ちで、現にとても重い3つのタンクを容易く持ち上げている。



「本当に大丈夫。私、力には自信があるから。

だからさ、ドリンクは私に任せて、さつきちゃんはタオルとか、他にできることをやってて。」



「うー・・・わ、分かった!けど、絶対にむりしないでね!?」



「分かってるよ。」



分かった、と言いつつもやはりまだ心配そうな顔をしている彼女に、私はもう一度タンクが一個の方の腕をヒョイと高く上げて見せた。








1軍から3軍はそれぞれ体育館が別々だそうで、流石強豪だなと改めて感じた。



それから、3軍、2軍の順でタンクを届けたが、その際には必ず、先ほどのさつきちゃんのように驚かれた。



そして、最後は1軍。



私が体育館に入ると、まず目についたのは黒い彼・・・青峰君だった。



彼は、入ってきた私にすぐに気が付いた。



「おお、臨時マネってお前だったんだな、成琉。」



「うん。

というか、今日の青峰君は一段と黒いね。」



「あん?」



そう、彼は今黒いTシャツに黒い短パンという格好だ。



つまり、もともと肌が黒い上に、黒い衣服を身にまとっているのだから、一段と黒く見えるのだ。



「そういえば―――「危ない、避けろ!!」



『このタンクどこに置けばいい?』と聞こうとした時、体育館の奥からそのような叫び声が聞こえた。



ふと目の前に視線を移すと、なんとバスケットボールが勢いよく私に向かっているではないか。



「おっと!」



このままでは、私の顔面に直撃だ。



なので、私は持っていたタンクを顔の前に持ち上げて、咄嗟にガードの姿勢を取った。







―――バコッ!!!







結構大きな音がした。



けれど、大量のスポドリが入ったタンクも柔ではなく、結構揺れたが、それでも飛んできたボールを跳ね返した。



つまり、私に何の被害もなく、ガードは成功したというわけだ。



「おま、大丈夫か!?」



「うん、平気平気。ちゃんとガードしてたでしょ?」



流石の青峰君も驚いて駆け寄ってきたが、私はニシシっと得意げにタンクを持ち上げて見せつけた。



「まぁ、ちょっと傷が付いちゃったかもしれないけど。」



「ちょっと待て、お前これ1人で持ってきたのか?」



すると、彼は私のタンクを見るとハッとして、そう聞いてきた。



「うん、そうだけど。」



「ちょっと貸せ!」



それから、私からタンクを奪い取ると、途端に目を見開いた。



「ちょ、おま、これかなり重いぞ!?

こんなの1人で持ってきたのか!?さつきは!?」



「さつきちゃんには他の仕事をやってもらってるよ。

私、力には結構自身があるんだ。これくらいは1人で運べる。」



「マジかよ・・・・。」



驚いて途方に暮れている青峰君を見ると、私は思わず笑ってしまった。



「どう、驚いた?

これぞ、縁の下の力持ちってね!」



またまた得意げに言葉を口にし、『じゃあ、そのタンクはよろしく。』と最後に伝えて、私はさつきちゃんを助けるべく戻った。







―――このことが様々な人たちに見られていたことも知らずに・・・・。









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