人間になりたい猫

□緑の人
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「うらっ!」



「あぁ!?もっかい、もっかいっス!!」



昼休み。



あまり人がいない体育館では、青峰君と黄瀬君が『1on1』という、1対1の勝負をしていた。



私は端で観戦させてもらっているんだけど。



毎回負けるのは黄瀬君で、彼は悔しそうだけど、同時にとても楽しそうだった。



その時―――



「全く、相変わらずなのだよ。」



すぐ隣で声がした。



見ると、緑色の髪と眼鏡が特徴的な青年が立っていた。



「・・・臨時マネージャーの一条か。」



目が合い、そう言われたので思わず頷いた。



「はい。あ、でも苗字呼びは慣れていないので、名前で呼んでいただけると助かります。」



「そうか。俺は緑間 真太郎。

お前と同じ2年だ。だから、敬語を使う必要はないのだよ。」



「あ、そうなんだ。」



またまたやってしまった。



けれど、彼にはとても威厳が感じられるので、なんとなく恐縮してしまう。



でも、この人にも口癖がある。



というか、『のだよ』って、なんなのだよ。



「あのさ―――」



「緑間っち!!」



何かを話そうと、彼に声をかけようとした時、突然黄瀬君の叫び声が聞こえた。







―――ガシャン!!!







同時に、何かが割れる音がした。



「えっ?」



割れた音の方向を見ると、そこには床で割れた何かの小物と、それを見て放心している緑間君の姿があった。



私が思わず声を出したのは、その2つの間のミスマッチさだ。



威厳のある彼に、どうして小物などを持っていると想像できるだろうか。



「み、緑間っち、ごめんっス・・・。」



黄瀬君が彼に謝るのを見て、彼の投げたボールが緑間君の手に当たり、その結果緑間君が小物を落として割ってしまったことが分かった。



緑間君はやがて身体をプルプルと震わせ、次にとんでもない言葉を発した。



「俺の・・・・ラッキーアイテムがっ!!!」







―――ぶふぉ!!!







その瞬間、私は勢いよく吹いた。



なんと言ったって、外見では威厳のある彼の口から『ラッキーアイテム』という単語が出てきたのだ。



これを笑うなという方がおかしい。



また、私は彼を誤解していたことに気付いた。



彼は、全然怖くない。



そう確信できただけで、一方的にだけど、一気に打ち解けられた気がする。



「あは、アハハハハハ!!!!」



「成琉っち!?」



「な、何故笑う!?」



「いや、そりゃ笑うだろふつー。」



黄瀬君と緑間君は驚いているけれど、青峰君は冷静にそう突っ込みを入れた。



彼は分かってくれているらしい。



「ら、ラッキーアイテムって・・・!」



「俺はいつも人事を尽くしている。

そして、おは朝占いのラッキーアイテムをいつも身に付けているのだよ。」



「ブーー!!ちょ、それ以上笑わせないで!!」



更に追い打ちをかけてくる緑間君に、私は危うく笑い死にそうになった。











それから、やっと笑いが収まり、私は改めて彼に聞いた。



「それで、結局ラッキーアイテムは何だったの?」



「・・・猫なのだよ。」



「は?」



一瞬、聞き取れなくて私は思わず聞き返した。



「今日のラッキーアイテムは『猫』だ。

つまり、『猫』であれば、本物でも置物でも何でもいいのだよ。

だから、俺は猫の置物をラッキーアイテムとしていたのだよ。」



「そうだったんだ。」



―――『猫』であれば何でもいい



その時、私はいいことを思いついた。



「そうだ!私が緑間君のそばにいればいいんだ!」



「「「は!?」」」



これには、流石の青峰君も他の2人と共に声を漏らした。



まぁ、確かに私の正体を知らない人にとっては、何故そんな答えに行きつくのか全く理解できないだろう。



でも、私はカカ族。



つまり、正真正銘の『猫』なのだ。



これ以上最適なものはないだろう。



「どうしてそういうことになるのだよ!?」



「いいから、任せて任せて!」



緑間君。



今日のあなたの運勢、私がしっかりとキープします!



・・・・なんて。









その後の練習では、マネージャー業以外の時は、極力緑間君のそばについた。



周りの人には、少し変な目で見られたけど、堂々と『緑間君のラッキーアイテムです!』と言って見せた。



そのたびに、緑間君が恥ずかしそうにしていたのは見なかったことにしよう。



けれど、その効果があったのか、今日緑間君は一度もシュートを外さなかった。









「緑間君、一緒に帰ろう!!」



私は最後まで自分の役目を真っ当するつもりでいた。



だから、緑間君と行けるところまでは一緒に帰ろうとした。



すると、今までで一番変な顔をされた。



「何故、俺がお前と一緒に帰らなければならないのだよ。」



「いや、私だって役目を引き受けたからには最後まで真っ当しようかと。」



「お前が勝手にやっていることだろう。

俺はそもそも頼んでいないのだよ。」



「まぁ、そう言わずに。

というか、今日シュート外さなかったでしょ?」



「フン、たまたまなのだよ。」



本人は嫌がっているが、こうやって会話しているうちに、ちゃっかり一緒に帰る形となっている。



実は、これも戦略のうち。



「おーい、成琉っち!緑間っち!」



すると、後ろから黄瀬君と青峰君が小走りでやってきた。



「俺たちも一緒に帰るっスよ!」



「たく、何で俺まで・・・・。」



正確には、青峰君は黄瀬君に引っ張られる形でやってきていて、少し面倒くさそうな顔をしている。



「うん、皆で帰ろう!」



「・・・・カオスなのだよ。」









それから、いつの間にか青峰君の提案でコンビニに寄ることになった。



皆が迷うことなく手にしたのは、ソーダ味のアイスキャンディ『ゴリゴリ君』。



私もつられて買ってしまったけれど、



「これ、美味しい!!」



そのアイスキャンディは、外はシャリシャリ、中はその名の通りゴリゴリしていて、とても美味しかった。



「・・・・当たり、なのだよ。」



その時、緑間君がボソッと呟いた。



見ると、彼が持っているアイスの棒には『あたり』という文字があった。



それを見た途端、私はとても嬉しくなった。



「やった!ほらほら、私やっぱりラッキーアイテムとして役に立ったでしょ!」



「・・・全く。

最初はあんな重いタンクを軽々と持ち上げるとは、どんな奴なのだと思っていたが、

本当に騒がしい奴なのだよ。





・・・・だが、何故かは知らんが、悪くはない。」



すると、緑間君は眼鏡を押し上げながら少々悪態を吐きつつ、けれど最後にはそう言ってくれた。


「本当!?

緑間君、ありがとう!これからよろしくね!」



「・・・フン。」



そんな感じで、私は黄瀬君に引き続き、後の『キセキの世代』の1人、緑間 真太郎君と仲良くなった。









―――緑間っちって、やっぱり素直じゃないっスねー



―――う、うるさいのだよ!!



―――ほんと、典型的なツンデレだよなー









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