人間になりたい猫

□水色の人
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2日目の練習も、午後に入った。



私はいつものようにタンクを運び、皆にドリンクを配っていた。



「(あれ、そういえばあの人・・・)」



そんな時、ふと1人の部員が目に入った。



彼は自分よりは断然身長は高いものの、周りの部員に比べたらはるかに低い方だった。



その所為かもしれない、今まで全然気づかなかった。



「はい、ドリンク。まだ渡していなかったよね?」



「・・・・・・。」



けれど、ドリンクを差し出すと彼は少し目を見開いたまま、何も声を発しない。



―――あれ、もしかして、間違えた?



黄瀬君から紫原君まで、皆同じ学年だったから、今回も尚更そうなんじゃないかと思って、敬語を使うのはやめたのだけれど。



実は、先輩だったのかもしれない。



やっぱり最初は念のために敬語を使うべきだった。



頭の中で色々と後悔していると、横から声がかかった。



「珍しいな、自らテツに気付く奴なんてよ。」



「青峰君?」



その声は青峰君で、彼がそう言うと、目の前の青年が口を開いた。



「そうですね。初めてです、まだ話しかけたこともない人から声をかけられるのは。

正直、驚きました。」



それから、髪が水色の彼は『ありがとうございます』と言ってドリンクを受け取ってくれた。



「こいつ、超影薄いからよ。

最初は誰もこいつのこと気付かねーんだ。」



「あ、ごめん、私もさっきまで気付かなかった。」



「大丈夫です。

青峰君も最初は僕をお化けと勘違いしましたから。」



「ちょ、おいテツ!!」




彼の話を聞くと、どうやら青峰君も最初は彼に気付かず、後ろから声をかけたら急にしゃがみこんで震えていたらしい。



青峰君の意外な一面を知り、私は笑ってしまった。



「おい、成琉!お前も笑うな!」



「だって、意外すぎるから・・・!

青峰君も可愛い所あるんだなーって。」



「可愛いとか、全然嬉しくねー!!」



笑う私に、恥ずかしがりつつキレる青峰君。



そんなやりとりをしていると、水色の彼はクスっと笑った。



「2年の黒子 テツヤです。よろしくお願いします、一条さん。」



「あ、うん。あと、私苗字呼び慣れてないから、名前で呼んでもらってもいいかな。」



「分かりました。」



彼が手を差し出してきたので、私も手を差し出し、2人で握手を交わした。



ついでに、彼が同学年だったことにはホッとした。







「テツ君ー!!ドリンクだよー!!」



「すいません、桃井さん。もう成琉さんにもらいました。」



「・・・・・。」



「あ・・・さつきちゃん、ごめん・・・・。」



黒子君の一言に、さつきちゃんがピシっと固まってしまったので、私は思わず謝った。



すると、さつきちゃんは目を見開いた。



「えー!?成琉ちゃん、テツ君のこと気付いたの!?」



「あ、うん。」



「すごい!!テツ君に気付くなんて、流石成琉ちゃんだね!!」



「は、はぁ・・・。」



黒子君に気付くことは、そんなにも難しいことなのか。



私は少しだけ彼が可哀想に感じられた。



それにしても、先ほどからさつきちゃんは黒子君にこれでもかというほどの熱い視線を送っている。



もしかして、彼女は・・・・



「ねぇ、さつきちゃん。もしかしてさつきちゃんは黒子君のこと・・・・」



「きゃーーー!!成琉ちゃんも分かっちゃった!?

そうなの、私テツ君大好きなんだー!!」



その時、私は即座に思った。



―――可愛い!!さつきちゃん、超乙女!!



「さつきちゃん、私応援してるから!!」


「成琉ちゃん・・・・ありがとう!!」



まさに、恋する乙女とはこのことか。



この時、私は人間の『恋』というものを初めて見たのだった。









―――そういえば、テツ君!昨日は本当にありがとう!!



―――喜んでもらえて、良かったです



―――え、昨日って?



―――あのね、昨日私の誕生日だったんだけど・・・



―――え゛!?ご、ごめん!!



―――ううん、私も言ってなかったから、大丈夫!



―――それでね、テツ君、私に可愛いぬいぐるみくれたんだ!



―――(黒子君って、ああ見えて結構男前!?)









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