人間になりたい猫
□赤の人
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連休3日目。
「成琉ちゃんって、すごいね。
この3日間で、皆と仲良くなってるなんて。」
いつものようにマネージャー業を行っていたところ、一緒にいたさつきちゃんにそう言われた。
確かに、この3日間で仕事はしっかりと板についたし、何より部員たちと打ち解けあうことができたことが大きな変化だ。
「成琉、飲みもんくれ。」
「あ、成琉っち、俺もほしいっス!」
「成琉ちーん、お菓子ちょーだい!」
「紫原、まだ練習中なのだよ!
成琉も、あまり紫原を甘やかすな。」
「成琉さん、タオルをいただけますか?」
特に、この5人。
青峰君、黄瀬君、紫原君、緑間君、黒子君。
皆、苗字に色がついていて、結構個性的。
でも、だからこそ接すると楽しい。
でも、私はあくまでも臨時マネージャー。
務めも、今日を含めてあと2日だ。
加えて、マネージャーの仕事も楽しくてやりがいのあるものだということも、やっているうちに分かった。
だから、あと2日でやめてしまうのは少し残念な気もする。
でも、だからこそ、あと2日間も私は最善を尽くすつもりだ。
「さつきちゃん、今日も頑張ろうね!」
「うん、そうだね!」
そんなわけで、今日も私は張り切って仕事に取り掛かった。
その後、練習が終わり、私は着替えを終えてさつきちゃんと帰ろうとした。
けれど、急にトイレに行きたくなった。
「ごめん、ちょっとトイレに行ってもいい?」
「あ、いいよ。
丁度体育館が目の前にあるし、そこのトイレ使いなよ。」
「うん、行ってくるね。」
さつきちゃんには悪いけど、少し待っててもらい、私は急いで体育館の昇降口に入った。
「(確か、トイレは入ってすぐ左だったっけ。)」
そう思いつつ、私はトイレに向かった。
「あ゛あ゛!?
赤司てめぇ・・・今なんつった!?」
けれどその時、体育館の中の方から何やら叫び声が聞こえた。
しかも、今の声からして結構悪い状況が予想できた。
私は無視することはできず、開いた扉からそっと中を覗いてみた。
すると、中には2人の部員がいて、その内の1人は昨日黄瀬君を負かしたチャラ男だった。
一方、もう1人はチャラ男と顔一つ分ほど背が低い青年で、赤い髪が特徴的だった。
そして、今チャラ男が赤い彼の襟元を掴んでいる状況だった。
これは、いつもの私であれば迷いなく飛び出している状況だったが、今回は飛び出さなかった。
何故なら、こちらから見る限り、赤い彼はチャラ男に全く動じていないからだ。
「素行は決して褒められたものではないが、今まで帝光の勝利に貢献してきた。
だが、お前は黄瀬には勝てない。」
むしろ、彼の声にはどこか威厳があった。
「遅いか早いかだ。
どちらにせよ、結果は変わらない。」
「てめぇ・・・」
しかし、次の瞬間、チャラ男は拳を振り上げた。
それでも、どこかで赤い彼が自分で何とかするだろうと感じてはいたが、やはり放っておくことはできない。
私は咄嗟に駆け出し、チャラ男が振り下ろした拳を片手で受け止めた。
―――ガッ!!
鈍い音がした。
「何だ、てめぇは・・・!?」
「暴力は絶対に駄目です。」
「ハッ、よく見れば臨時マネか。
そういや、タンクを1人で持って歩くほどの馬鹿力だった、なっ!!」
すると、今度は下から蹴りが出てきた。
私はすぐに手を放して、彼の肩を手で掴み、自身の身体を持ち上げた。
「なっ!?」
驚く彼は無視し、逆立ちの状態のまま手を放して宙返り。
スタン、と彼の背後に着地した。
「てんめぇ・・・逃げてんじゃねーよ!!」
それに対して、更に彼は怒りを増幅させ、再び私に殴り掛かった。
まだやるか、と私が若干呆れた時、赤い彼が口を開いた。
「やめろ、灰崎。それ以上やるならば、退部だけでは済まさない。」
『灰崎』と呼ばれたチャラ男は、その声でピタッと動きを止めた。
「・・・・チッ!!」
そして、大きな舌打ちをしてから、体育館を出て行った。
それからしばらく、私と赤い彼の間で沈黙が流れたが、先に私が口を開いた。
「・・・・なんか、ごめんなさい。」
「何故、謝る?」
「いや、何となくだけど、あの時私が出ていかなくても、あなたなら自分で何とかできそうだって、思ってた。
でも、やっぱり暴力は放っておけなくて・・・・お節介だったかな、と。」
「・・・なるほど。良い直感を持っているな。」
すると、彼は少し笑った。
その表情を見て、私の直感が間違っていなかったことが分かる。
ならば、尚更申し訳ないと思った。
「だが、助かった。ありがとう。」
「どう、いたしまして。」
そして、またもや沈黙。
何だか、彼といると緊張感というか、何か話しづらい雰囲気になる・・・気がする。
けれど、今度は彼の方から言葉を発した。
「一条。」
「あ、ごめん。苗字呼びに慣れてないから、名前で呼んでくれると助かる。」
「分かった。では、成琉。
男子バスケ部にマネージャーとして正式に入部する気はないか?」
「えっ?」
突然の質問に、私は思わず声を漏らした。
「お前はこの3日間、期待以上の働きをしてくれた。
しかも、お前の影響でチームのコンディションも以前より良くなっている。
だから、これからもチームの勝利に貢献するために、マネージャーを続けてもらいたい。」
「本当に?
私、丁度マネージャーの仕事に魅力を感じて、続けたいと思っていたところで・・・・
でも、私でいいの?」
「いいも何も、チームの勝利にはお前が必要なんだ。」
そう言う彼の声は、とても真っ直ぐなもので、私は素直に嬉しくなった。
「ありがとう!これからも、チームのために頑張ります!」
「あぁ、よろしく頼む。
そうだ、自己紹介が遅れたな。
2年の赤司 征十郎だ。」
そして、私は赤司君と握手を交わした。
―――成琉ちゃーん?
―――いけない、さつきちゃんのこと忘れてた!!
―――・・・・・・
―――あと、トイレも!!
―――・・・・はぁ
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