春よ恋

□ひとつ
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「再婚ですって!?何よそれ、私は絶対に認めない!!」

そう叫んで思い切り電話を切った。

「また、お母さんから?」

「・・・うん。」

学校が終わり、今は寮近くの喫茶店で友達のマキちゃんとお茶していた。

そこへかかってきた電話。いきなり持ちかけられた再婚話。

私は一気にテンションが下がった。

「聞いたでしょ?再婚したいってさ。
まだお父さんが亡くなって一年経ってないんだよ?笑わせないでよ・・・!」



中三の秋、お父さんが亡くなった。
仕事場での不慮の事故だった。

私は今まで大好きなお父さんとお母さんに囲まれて、何の不足もなく育った。

毎日が幸せだった。




でも、お父さんが亡くなって私は本当にショックで、一週間は泣きっぱなしだった。

でも、本当にショックだったのはその後。


私がお母さんの代わりに夕飯の買い物をしていた時、見てしまった。

お母さんが知らない男の人と歩いていたところを。

初めは見間違いだと思い、あえて知らない振りをしていた。

でも、その一ヶ月後にお母さんの口から付き合っている事実を聞かされて、私は怒り狂った。

お母さんを怒鳴りつけたのはあの時が初めてだった。


それから私はお母さんと話さなくなり、高校も寮制のところを選んで家を抜け出した。

たまに知らない男の人の匂いがするあの家が嫌だった。
自分の居場所はもうどこにもなかった。

たまにお母さんから電話がかかってくるたびに苛立った。


そして、今日はついに再婚話。


ふざけないでよ!



「マキちゃんごめん。私、先に帰るね。」

「・・・うん、分かった。気を付けてね。」

そう言って不満な顔何一つしないマキちゃんには本当に感謝してもし切れないくらい。
マキちゃんは私の事情を唯一知っていて、私の一番の友達。
因みに、寮も一緒で良くお互いの部屋に招いて遊んだりしている。

「(今度、何か奢ってあげよう。)」

そう思いながら喫茶店を出て、角を曲がろうとした時、いきなり誰かにぶつかった。

「わっ、ごめんなさい!」

「あぁ、こちらこそすまぬ。」

返ってきたのは程よく低い声で、顔を上げるとそこには蒼い目をした男の人がいた。

でも、良く見ると制服を着ていて、しかも私の学校の近くにある桜華学園のものだ。

「(頭良さそう・・・。)」

それが第一印象。

次に、その人が結構イケメンであることも分かった。

でも、何よりも良いなと思ったのは、その透き通った蒼い目だった。

きっと嘘なんて絶対につかない、とても純粋な人なんだろう。

「(―――っと、ぶつかった人の人間観察なんて、失礼極まりないわ。)」

本当にすいませんでした、ともう一度謝ってから私は再び歩き出した。


けれど、今ぶつかった人が実は私に深く関係する人だとは、この時は全く思いもしなかった。






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