春よ恋
□ふたつ
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その日の夜、私はベッドで号泣した。
再婚なんて、予想はしてたけど、実際に母親自らの口で言われると本当につらいものがある。
今のお母さんには嫌悪感を感じるし、絶対に会って話したいとは思わない。
でも、嫌いと言ったら嘘になる。
本当は、本当はお母さんのことが凄く心配。
お父さんが亡くなって、私もつらかったけど、それ以上につらかったのはお母さんだ。
お父さんには内緒だったけど、お父さんが仕事で帰りが遅い時、お母さんはいつもお父さんのことを嬉しそうに話していた。
私も、お母さんの嬉しそうな顔を見ながら話を聞くことが好きだった。
だから、お父さんが亡くなった時、つらかったけどお母さんを支えなきゃと必死に涙を拭いた。
でも、気付けばお母さんは知らない男の人と付き合っていて、私は凄くショックだったし、自分の存在意義が分からなくなっていた。
どうして娘の私じゃなく、知らない男に縋るの?
私はもう必要じゃないの?
お父さんのことは忘れてしまったの?
結局耐えきれなくなった私は家を飛び出し、それから一度も家には戻っていない。
戻ったところで、どうせ付き合っている男の人がいるんだろうし、もう私の居場所なんてない。
けれど、そんな状況にまで陥っても私はお母さんを心配している。
でも、いざ話をすると今まで抑えてきた感情が一気に出てしまい、きつい口調になってしまう。
なかなか素直になれない。それが今の現状。
でもさ、あんなに傷付けられたんだから、私だけが悪いわけじゃないわ。
いまだにお母さんは私の気持ちに何一つ気付いてくれないけどね。
それからいつの間にか寝てしまったようで、気付けば時計は八時を示していた。
今日が日曜日で良かった。
昨日のショックが強過ぎて、私の心はまだ萎えている。
「あーもー、落ち込むな自分!」
そう言いつつ無理やり身体を起こした。
萎えてるからといって、折角の休みは無駄にしたくない。
ということで、今日は一人でショッピングに出かけることにした。
「(そういえば、この前お気に入りのコップ割っちゃったんだよね。)」
可愛い犬の絵が描かれたコップをうっかり割ってしまったことを思い出し、まずは新たなお気に入りコップを探すべく、とある雑貨店へ。
そこで、またまた犬柄のコップに惚れ込み、それを一つ購入した。
次はどこに行こうか、とショッピングモールを回っている途中、目の前の人に思わず立ち止まった。
「あっ、昨日の・・・」
すると、相手も気付いたようで、私に近づいた。
その人とは、昨日喫茶店近くでぶつかった蒼い目の男の人だった。
「偶然だな。この辺りに住んでいるのか?」
「はい、まぁ・・・」
そう答えながら、彼の両手に持っているスーパーの買い物袋に視線を移した。
「買い物、ですか?」
「あぁ。俺の家は父親と二人暮らしなのでな、父親は仕事で忙しい故、俺が買い物や料理を作っている。」
「そう、ですか・・・。」
それを聞いて、私は昨日のお母さんのことを思い出し、つい口を開いた。
「あの、お父さんと二人でも上手くいってますか?仲良くやっていますか?」
言ってからしまった、と後悔。
こんなの他人の傷口を抉るようなものだ。
私だって元々は母親と二人だったから、誰よりも気持ちを知っているはずなのに。
けれど、慌てて謝ろうとする前に、彼が言った。
「あぁ、俺も父さんも共に支え合いながら上手くやっている。
確かに、母さんが亡くなった当初は気まずかった。だが、同じ悲しみを知っているからこそ、互いに慰め合い、支え合えた。
だから、今は問題なくやっている。」
「・・・いいですね、そういうの。うらやましいです。」
どうやら彼も私と同じ立場だったらしいが、私とはまるっきり正反対だ。
大丈夫だ、と自信を持って言う彼がとてもうらやましかった。
「いきなり変な質問してすいません。
実は私もお父さんが亡くなってしまって、お母さんと二人暮らしだったんです。でも、全然上手くいってなくて・・・」
名前すら知らない人だったから、とりあえず新しい恋人のことは黙っておく。
けれど、彼がどう答えるのか聞きたかった。
「そう、だったのか。
だが、同じ悲しみを知っているのであれば、必ず気持ちは通じ合える。
上手く言えぬが、もう少し素直になるべきなのではないかと思う。」
「素直に・・・。」
「そうだ。
自分が今悩んでいることを全て吐き出してしまえばいい。
たとえそれで衝突があったとしても、血の繋がった家族なのだから、離れてしまうようなことはないだろう。」
「なるほど。」
確かに、今悩んでいることを直接言えば、お母さんは分かってくれるかもしれない。気付くのを待っているだけじゃきっと駄目なのだ。
今すぐに、とはいけないかもしれないが、そうできるようにこれからは努力しよう。
そんな目標ができると、何となく気持ちが楽になった。
「何か、昨日ぶつかっただけなのに、色々教えて下さって本当にありがとうございました。
私、梅宮高校一年の宇奈月 琴音です。」
「あぁ、昨日制服を見て分かった。
俺は桜華学園二年の斎藤 一だ。」
それからお互いに自己紹介をし、これも何かの縁ということで、メアドを交換した。
「俺もあんたと同じ立場だ。少しはあんたの力になれるだろう。
だから、また何か悩みがあれば相談に乗ろう。」
「あ、ありがとうございます!」
こうして、私は斎藤さんと知り合いになった。
今一番悩んでいる時に頼れる人ができて本当に嬉しかった。
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