春よ恋

□みっつ
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『だから、琴音にも会って欲しくて・・・』

「何で私が会わなきゃいけないの?
嫌よ、絶対会わないから。」

そう言って一方的に電話を切った。

これでもう何度目だろう。


斎藤さんにアドバイスをもらってから、素直にならなきゃとは思ってはいるけど、どうしてもなれない。

お母さんが知らない男の人のことを嬉しそうに話しているのを聞くと、無性に苛ついて言葉を尖らせてしまう。

お父さんのことは忘れたのかと聞けばいい話なのだが、それが言えない自分がもどかしい。

「(・・・斎藤さん。)」

携帯の最新メモリーには斎藤さんの名前がある。

彼も忙しいと思うから、些細なことはなるべく自分で解決しようとはしていたが、こればかりはもうどうしようもなくて、仕方なく相談に乗ってもらうことにした。

「『相談に乗って欲しいことがあります。空いている日はありますか?』
―――送信っと。」

十五分休みに送ると、昼休みに返事が返ってきた。

『今日の放課後は空いているが、大丈夫か?』

とあったので、『大丈夫』と送信し、放課後にお互いが知っている喫茶店で待ち合わせることになった。

といっても、この前斎藤さんとぶつかる前にマキちゃんといた喫茶店だけれど。





放課後、私は急いで喫茶店に行くと、斎藤さんはとっくに着いていた。

「遅くなってすいません。」

「いや、俺も今来たところだ。」

私が向かいの席に座ると、斎藤さんは読んでいた本を閉じて鞄に仕舞った。

「それで、どういった悩みがあるのだ?」

「その、実は―――」

私は今までのことを全て話した。

お母さんが再婚相手に会って欲しいと電話してくること。

私はそのたびに苛立って言葉を尖らせてしまうこと。

その結果、まだ素直になることができていないし、これからもできなさそうな気がすること。

「お母さんはお父さんが大好きで、お父さんのことをいつも嬉しそうに話していました。
でも、それが今は知らない男の人に変わってて、そう思うとどうしても苛立ってしまうんです。」

「・・・なるほど。」

すると、斎藤さんは『こんなにも偶然に重なることがあるのだな』と言葉を口にし、私は意味が分からないでいると、斎藤さんが口を開いた。

「実は、俺の父さんにも新たに想う女性ができてな。」

「えっ?」

「最近、再婚の話が出てきている。」

確かに、これは凄い偶然だ。私は咄嗟に聞いた。

「あの、嫌じゃないんですか?お父さんが違う女の人と付き合うとか、お母さんのことを考えて不快に思ったりしないんですか?」

「・・・確かに、最初は不安だった。母さんのことはどう思っているのか、と。

だが、その女性と付き合い初めてから父さんは変わった。
今までは俺と二人でも上手く生活はできていたが、父さんはどうも何かが抜け落ちてしまっているようだった。

だが、最近の父さんは良く笑うようになった。

俺は、父さんが笑っているならば、それで良いと思った。

実際、母さんのことも週に一度は遺影に手を合わせているしな。」

「そういうもの、ですかね?」

「あんたの言うことは良く分かる。
だが、少しずつでいい。もう少し考え方を変えてみてはどうだ?」

「考え方を・・・」

私は今までずっと、お母さんは他の男に縋って、お父さんのことなんてすっかり忘れてしまっているんだと考えていた。

でも、それを変えるなんて・・・

「そんなこと、私にできますかね・・・?」

「それはあんた次第だ。
だが、少なくとも自分が認めようとしなければ、それはできないだろう。

自ら心を開くことも大事だ。そして、それは自身の成長にも繋がる。」

「自ら心を・・・」

それは、きっと一番難しいこと。そして、今私が悩んでいる一番の原因。

私はいつも、お母さんも私を傷付けたのだから私だけが悪いわけじゃない、と責任を半分お母さんに押しつけていた。
だから、自ら心を開くことはなかなかできなくて。

でも、それが分かっているならば、まずはそこから直していくべきなのかもしれない。

「・・・何となく分かったような気がします。」

斎藤さんは凄い。
私がどうしても先を見出だせなくて右往左往しているところに、あっという間に道を作って誘導してくれる。

「また助けてもらってしまいました。お忙しい中、ありがとうございました。」

「いや、俺もあんたの力になれて嬉しい。
これからも、遠慮なく相談してくれ。」

「あ・・・・。」

その時、微笑む斎藤さんを見て、思わず胸が高鳴った。
それから、心臓はどんどんうるさくなっていき、私は顔が熱を帯びるのを感じた。

「(えっ・・・嘘、もしかして私・・・・)」





それから、この感情の意味に確信を持ったのは寮に戻ってから二時間後だった。





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