お題小説

□可愛いあなたはクスクスと泣いた
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都大会で青学に敗れ、敗者復活戦で氷帝にも敗れた時、俺達の全国への夢は断たれた。

会場から学校への帰り道を、俺達はどんよりとした空気をまといながら歩いていた。
暗い空気を無理に和ませようとする柳沢先輩も、涙を流す後輩を慰めている赤澤部長も、ノートを眺めながらブツブツと何かを呟いている観月さんも、全国への夢を叶えられずに、卒業する。


「ふぅ・・・嫌な空気だなぁ・・・」


ふと、俺の斜め前を歩いていた木更津先輩が呟いた。
試合に負けた時も、全国に行けないことが決まった時も、この先輩は涙を流すことはなかった。


「・・・木更津先輩は、悔しくないんすか。俺は・・・悔しい・・・!!」


皆に泣く姿を見られたくなくて、会場のトイレに一人こもって涙を流した俺。
その時の気持ちが甦って視界が少しだけ潤んだ。

木更津先輩は相変わらずの無表情で呟く。


「・・・悔しいよ」


少し止まって俺の隣まで来た木更津先輩。
先輩は、男には似合わない"可愛い"と言える笑顔を浮かべて、言葉を繋げた。


「スッゴク悔しい。・・・でも、それ以上に楽しかった。このルドルフで過ごした時間が」

「木更津先輩・・・」


だから、悔いはない。と言う木更津先輩を、俺は、見つめる事しかできなかった。
気づけば、後ろの方で柳沢先輩が泣いていた。
そんな光景を見て、俺は思った。


「・・・木更津先輩は、泣かないんすね」

「・・・さあ、どうだろう・・・」


その時、俺の頬を何かが伝った。涙ではない。
・・・雨だ。


「・・・あ、降ってきた。
クスクス、こんなに降ってきちゃったら誰が泣いてるのか分かんないや」


空を見上げながら歩く木更津先輩の目から、雨とは違う液体が伝っていた事に気づいてしまったことは、俺の心の中だけにしまっておくことにしよう。


「・・・木更津先輩。来年こそは、必ず全国行ってみせますから」

「クスクス、頼んだよ」




可愛いあなたはクスクスと泣いた

先輩達の夢を継ぎ

俺達は

歩き続ける



2010.7.15

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