お題小説

□あの日海に消えたのは
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夕焼けに照らされた海、空。
一年前のあの日、俺達はこの港から出発した。
苔の生えたテトラポッド。高くそびえ立つ灯台。
港はあの日と何も変わっていなくて、この過ぎさった一年間を忘れさせようとでもしているかのようだった。
変わっていない。何も。…何も?

………否。
俺の世界の全ては変わってしまった。
大切だったモノ達は全て消えてしまった。奪われてしまった。居なくなってしまった。
この手で消してしまったモノも、たくさんあった。
もう戻れない。あの日々には。あの場所には。…今までの世界には。

眼前に広がる海は夕日に照らされてとても綺麗で、しかししゃがみ込んで目を凝らせば、酷く濁った汚いものだった。
……あの島の海は、どんなに近くで見ても透き通っていたな。この海よりも断然美しかった。
そんな事を思い出した。
あんなにも大嫌いな場所だったのに、憎い場所だったのに、何故か今だけはこの場所の方が憎らしく感じた。醜く感じた。
それでも朱色に光る太陽だけは変わらず綺麗で、美しくて。
目を閉じて瞼越しにその光を感じれば、まるであの時に戻ったかのように記憶が甦ってくる。

ポツリ、ポツリ。

静かな波の音に重なって、膝を抱え込む腕に水滴が落ちる音がした。

ジワリ、ジワリ。

海風にあてられてすっかり冷えた頬を水滴が伝って、そして服の袖に作る染みを大きくしていく。


「……幸、村部長、真田副部長……柳、先輩……!
っに、仁王先輩柳生先輩、丸井先輩ジャッカル先輩……!」


助けられなくてごめんなさい。
奪ってしまってごめんなさい。
……俺だけ生き残ってしまって、ごめんなさい。

何度も何度も謝ってきた。それでも心の中の罪悪感が消える事はなくて。



―――だからもう、終わりにしたい。



ぎゅっと強く涙を拭う。すこしばかり滲む視界に映る太陽は、相変わらず美しく輝いていた。

立ち上がり太陽に背をむけるとそこには夕日に照らされた崖がそびえ立っている。
俺はもう一度だけ後ろを振り返って夕日に照らされた港を目に焼き付けると、切り立ったあの崖へと歩きはじめた。






あの日海に消えたのは
(俺が生きていくための)
(全てだったんだ)








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願って、そして手に入れたものは虚しさと罪悪感だけだった。
こんな未来なんか予想してなかったって事、誰でも一度はあると思うんです。

2014.2.1
 

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