お題小説

□グサリと刺す背中
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バトルロワイアルという悪夢のゲームに巻き込まれ、今日で3日目。つまりプログラム最終日だ。
今日優勝者が決まらなければ、我々参加者は全員この忌々しい首輪によって死を向かえる事になる。
薄暗い森の中、柳生は自分の少し前方を歩く仁王の背を見つめた。

「(なんて無防備に…)」

背後をとられているのだろう。いや、それだけ信頼されているという事なのだろうか。
少し猫背ぎみの彼が身に纏うジャージは若干血で汚れており、それが今の状況を更に非現実的なものにしている気がする。
……そしてもちろんそれは、自らのジャージにも付着している訳だが。

「(……血)」

血が染み込んだ袖口を鼻元に近づけ息を吸い込むと、鉄に近い匂いが鼻腔に広がった。
血の匂い。血。血。
クラリと感じる目眩に、瞼を閉じて立ち止まる。息を整え目を開くと、目の前には仁王が立っていた。

「!」
「……柳生?どうした」
「……いえ」

目に映る白い髪。白い首筋。白い肌。
そしてそれらを彩るかのようにちりばめられた、赤。
敵の命を奪う時に鈍く光るその瞳も、ナイフを握りしめるその手も、赤に汚されたその体も、全て自分のモノにしたい。全て、自分が支配したい。
なぜか溢れてくるそんなおかしな欲求をなんとか抑え、再び歩を進める。
仁王は訝しげな顔を浮かべていたが、やがて黙って歩き始めた。

「……」

目の前を歩く、さっきよりも近くなった気だるそうな背中を再び目で追う。
……その背中にこのナイフを突き立てたら、きっと真っ赤な血が流れるのだろう。
溢れ出す衝動をぐっと堪える。
……でも、最後の最期には―――


―――貴方だけはこの手で殺したい、なんてね。





グサリと刺す背中
(嗚呼、)
(なんて甘美な想像)


2013.4.27
 

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