お題小説

□無限ループ
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「…この人も違ったか」

プログラムが始まって今日で2日目。そして親友の命を奪った奴を探し始めて丸1日がたった。
刃物で何度も刺され切られた親友の体は真っ赤に染まっていて、それでも最後の抵抗に彼もやり返したのだろう。地面に倒れる彼の近くには、彼のものではない人間の指が一本転がっていた。
俺はその指を拾い、島中に落ちている死体や出会った人間の手を調べて彼を殺した人物を探し始めた。

「くそっ……何処にいるんだ……!」
「誰がだ?」
「!!」

いきなり背後から聞こえた声に驚きバッと勢いよく振り返る。するとそこには、立海2年切原赤也がこちらに拳銃を向け立っていた。

「き…り、はら君」
「あー、お前鳳?だっけ」

切原はそう言うと銃は上げたままにこちらへ近づき、照準を俺の頭部へ合わせた。

「悪いね…いきなりだけど死んでもらうわ」
「ちょ…ちょっと待って!話を……っ」
「なんだよ、命乞いなら聞きあきたぜ」
「違っ」

パンっ、と発砲音を鳴らす拳銃。弾は右耳を少しかすって背後の木にぶつかった。

「つっ……」
「ありゃ」

切原はおっかしーなーなどと呟きながら銃身へ視線を移す。しかしそれも一瞬で、彼の目線は再びこちらへと戻った。

「わりぃわりぃ、次はちゃんと狙うからさ」
「っ……俺は」
「あ?」
「俺は、まだ死ねない。あいつを殺した奴を殺すまで死ねないんだ!」
「……へえ」

話を聞く気になったのか、切原は少しだけ銃口を下げた。

「なにそれ、詳しく聞かせろよ」
「…俺は、親友を殺した奴を探してる」

それから俺は全てを話した。親友が何者かによって殺された事。親友は殺される間際に抵抗の証に相手の肉体の一部を切り離した事。その肉体の一部とは手の指であり、それを目印に親友を殺した奴を探し始めた事。

「……だから、俺はまだ死ねないんだ」

全てを話終えたとき、切原は拳銃を完全に下ろしていた。眉を寄せ、じっと地面を見つめている。

「…俺も、柳先輩を殺った奴を探してる」
「!!」

悲痛そうに顔を歪める切原。彼も、俺と同じだった。

「……だったらさ、俺達手を組もうよ」
「は?」
「お互いの大切の人を殺した奴を、一緒に見つけよう」

二人の方が何かと助かるだろうし、何しろもう時間がない。プログラムは3日間で今日はもう2日目なのだ。このままでは確実に、何もできずに終わる。

「……分かった、いいぜ。ただし、お前を完全に信用した訳じゃねえ。お前の目的が達成された時点でお前も殺す」
「それで構わない」

話がまとまった俺達は、一時の同盟を結んだ。
とりあえず俺は自身に武器として支給された救護セットで先ほど受けた耳の傷の手当てをし、親友が何かの刃物によって殺害されていた事を話した。切原は柳さんが銃器によって殺害されていたことを話してくれた。
殺されたお前の親友って誰なんだよ?と切原に訊ねられたので、彼の死に様を脳裏にフラッシュバックさせながら、ゆっくりと名前を呟いた。

「……日吉、若」
「!!……あいつ、だったのかよ」

そう、何者かによって殺害された俺の親友とは日吉若だ。
いつも向けられる鋭い目は瞼によって隠され、彼がいつも大切にしていたレギュラージャージは血で汚れていた。今でも鮮明に思い出せる真っ赤な日吉の姿。
ジワリと視界が歪み、両目から頬へと涙が伝った。
切原はそんな俺を見ると、ただ不器用に俺の頭をガシガシとかき回した。





復讐の標的が既に死んでいる可能性は十分にあった。しかし、俺の復讐が果たされる時は唐突にやってきた。
あの後俺はなんとか落ち着きを取り戻し、ひとまず歩く事にした。何もしないより行動するべきだと思ったから。
そしてその考えは正解だった。

「おい鳳、あそこ見ろ」

さっと姿勢を低くした切原に習い体をかがめ、指差された方向を見る。
するとそこには、聖ルドルフの観月さんがいた。……正確には、六角のジャージを来た人間を襲っている、観月さんが。

「…アーミーナイフ」
「おい、奴の左手を見ろ」

言われた通り観月さんの左手を見ると、その手は血の滲んだ布に覆われていた。
アーミーナイフという武器に怪我を負った手。俺の頭の中で、日吉を殺した犯人はほぼ確定した。

「行くぞ」

銃を構え観月さんの方へ向かう切原に続く。
観月さんは物音に気付きこちらを向くと一瞬ナイフを構えたが、切原の持つ銃を見た瞬間にナイフを下げた。
地面に伏した六角の生徒は既に事切れていた。

「これはこれは、立海のエース切原君に氷帝の鳳君」
「よお観月サン」
「…」
「突然だけど、あんたに聞きたい事がある」
「なんでしょう?」
「立海の柳さんか氷帝の日吉、あんたどっちか殺したか?」

正直に答えろ。切原はそう言って銃口を観月さんの頭部へと向けた。
観月さんは返り血の付着した顔を真っ直ぐこちらに向けたまま、しばし黙った。
そしてフッと口元を歪ませ話しだした。

「日吉若君を殺したのは僕ですよ」
「!!」
「彼は本当に楽に殺せましたよ。脱出するのに協力してくれと言ったらまんまと騙されてくれました」

ぐるぐる、ぐるぐる。観月さんの話が頭の中を巡る。言葉の意味をうまく読み取れない。
しかしただ1つ、一番求めていた答えが見つかった。

コイツが日吉を殺した。

気が付くと切原の手から銃をふんだくっていた。そして、銃口を観月さんへと向けて引き金を引いていた。
1発、2発、そして3発目を打ったところで弾が切れた。
銃弾は全て観月さんの腹部と胸部に穴を開けていて、やがて観月さんは苦し気にうめき声を上げ地面に倒れた。

「お、おい!鳳テメェ!!」
「!…あ…」

切原の声ではっと我に反った。
ヒュー、ヒュー、と荒く呼吸をしている観月さんに視線を合わせる。
……おかしい。
少し冷静になれ、あの状況で相手を挑発するような言動をわざわざするだろうか?しかも、あの聖ルドルフの頭脳と名高い観月はじめが。

「切原君…残念、ですが…柳君を、殺…した人物について、は、僕には…分かりません」
「まさか観月さん、わざと……?」
「……僕は、もう狂ってる」

観月さんはそう呟くと、目を細め記憶を遡るように話し始めた。

プログラムに巻き込まれ最初は平気な顔をしていた。きっとなんとかなるだろう、と。だがいざゲームが始まれば頭に浮かぶのは恐怖と混乱。……真っ先に、自分の命の事を考えた。

「ゲホッ…そ、の結果…日吉、君を、犠牲者に…してしま、た」

彼を襲っている時に頭にあったのはただ自分の事だけだった。意識がなかった。そしてはっと気がついた時、目の前には真っ赤になった日吉が倒れていた。

「そ、して…彼の時も同じく」

観月さんはそう言うと目だけで少し離れた位置に倒れている六角生を見た。

「も、う…僕は、終わりにしたいんだ……だか、ら」

観月さんは掠れた声でそう言うと目を閉じ、すまない、と呟いてそれきり動かなくなった。
……狂ってる、か。
自分でそれに気付けた観月さんはきっとまだましだったのだろう。
まだ自分は大丈夫。そう考えながらも人を殺す。
そしてまた、まだ自分は大丈夫だ、と考える。
そう、本当に狂った人間は自分が狂っているだなんて永遠に気づかないのだろう。

俺は例の切断された指を救護セットの包帯を使い、観月さんの手へと返した。

「…」

そしてしばし続いた沈黙を破ったのは切原だった。
切原は弾を詰め替えたらしい銃を握りしめ、口を開いた。

「ま、何はともあれお前の目的は達成された訳だ……」

そう切原が話始めた時、定時の放送が始まった。切原はちっと舌打ちをするとかばんから名簿とペンを取りだし死亡者にチェックをいれていく。

俺の目的は達成された。
もうここで切原に殺されるつもりだった俺はそんな作業必要ないとチェックをするつもりはなかった。
機械的に並べられる学校と個人の名前。ほとんどがどうでもいいものに聞こえた。どうやら俺ももう狂っているのだろう。

しかし次に呼ばれた名前を耳にした瞬間、俺の生気はまた蘇った。…そして、復讐心も。

――氷帝学園3年、宍戸亮――

「…今の――」
「ゴメン切原」

切原の声を遮り、ゆっくりと立ち上がる。

「また、死ねない理由できちゃった」





無限ループ

(まだ、俺は大丈夫)

 

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