お題小説

□それでも世界は廻っている
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沈みかけた夕陽に照らされる崖っぷちに立つ。
もうこの世にはいない彼らの姿が頭をよぎり、ふと空を仰ぎ見る。

この手で命を奪った大切な親友、そして自ら命をたった後輩の姿。…未だに頭にこびりついたまま離れずにいる。

「幸村」
「!!」

突然の自分を呼ぶ声に驚き後ろを振り返ると、そこにはかつてのライバルがいた。

「…跡部、か」
「ふっ、何感傷に浸ってんだよ」

跡部景吾。
彼も俺と同じく取り残された人間だった。
5年前と比べればいくぶん大人になった俺達は、なんとか社会に溶け込んで生きてきた。

「あれからもう、5年がたつのか」

隣に立って同じく夕日を見つめる跡部の目には一体何が映っているのだろう。

「…なあ、跡部。……お前はあの日の事、後悔したことはないか?」
「………ない、と言ったら嘘になる。だが今はそんな気持ち微塵もねぇよ」
「……少しも、か?」
「ああ」

あまりに予想外な跡部の返答に少し戸惑い、再び聞き返す。
だって、後悔がないなんて俺には言えない。
後悔して後悔して、苦しみながら今まで生きてきた。そして今も。

「…跡部は強いな。俺は、俺の時間は、あの頃のままで立ち止まってる。……前に、進めないんだ」
「……なあ、幸村よ。俺があの日生き残った事を後悔なんてしたら、あいつらに申し訳ねえと思わねぇか?」

跡部は俺の目をまっすぐ見据えてそう言った。
俺の視線と交わった跡部の視線は、かつて共にテニスをしたときのあの強い目だった。

「確かに俺もあの直後、絶望に暮れたさ。あの時止まった俺の時間。あの時失った大切な仲間達。……そしてあの時始まった、俺の戦い」
「…始まった?」
「ああ」
「っ…お前の中で何かが始まったとしても、俺の中では全てが終わったんだ!」
「全てが終わった…ねぇ」
「なあ跡部……俺は一体どうすればいい……?」

俺の中では何一つとして始まったものなどない。あの時全てが、終わった。
俺はどうすればいいのか。どうすればあいつらに償えるのか。あいつらに恥じのないように生きていけるのか。
絶望と悲しみにくれて今まで生きてきた。
そんな俺に、答えが見つけられるだろうか。……生きる資格が、あるのだろうか。

「ふっ…分からねぇのか?お前自身でよ」
「なに、を……」
「俺様が思うに、お前の中でも答えは出ているはずだ」
「!!」

答えが出ている?
…確かにそうなのかもしれない。跡部に会った事で、跡部の想いを聞いた事で、俺の中に何かが生まれたのか。
いや、もしかしたら答えならはるか昔に出ていたのかもしれない。逃げていただけなのかもしれない。

あいつらから。
この世界から。
背負う事になったこの罪から。
……そして、自分自身から。

「……幸村、お前の時がまだ立ち止まったままだと言うなら、俺様が動かしてやる」

そう言うと跡部は俺の前に手を差し出した。
……まるで、俺の事をこの地獄から連れ出そうとしているかのように。

「てめぇの中の時間を取り戻すんだ。あいつらのために……!」
「…あいつらの、ために」

今までずっと逃げて逃げて逃げて生きてきた。
……そんな自分が、嫌だった。
でももう、逃げなくていいんだ。自分の中の時を進めていいんだ。

俺は、俺達は―――




「―――生きて、いいんだよな」

きっともう、俺は逃げない。
あいつらを忘れずに。
醜く美しいこの世界の中で。
この重い罪を背負って。
自分自身を愛して。


――――そして、生きていくんだ。


どんなに俺の中の時が止まっていようとも、この世界は廻り続けるのだから。





それでも世界は廻っている

(止まったままだった俺の時間が、今再び動き始めた)






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アトガキ

部活単位のBRで優勝した幸村と跡部。
それから5年がたち、二人は二十歳を向かえ死ぬほど憎んだ"大人"という部類に仲間入りしてしまう。
二人の心の中は―――?

たぶん幸村は優勝したとしても喜ぶ事は決してできない人間なんじゃないかと思うんだよね(´・ω・`)
仲間の事を忘れられずにラケットにすら1度も触れられないという。
逆に跡部はそのデカい器で何か革命を起こそうとするんじゃないかと。

とりあえず、立ち直れずにいる幸村をなんとかしようと跡部が救いの手を差し出す話でした。

2011.5.19

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