お題小説

□おばかちゃんとおりこうちゃん
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「もう無理だ……もう無理なんだよ千石」
「……南」

プログラム2日目。
俺はとうとう同じ学校の仲間に出会ってしまった。そしてその彼は、まさに今、命を絶とうとしている。

「皆、死んだ。無惨に、理不尽に」
「……」
「………なんで、俺達だったんだろうな」

俯きながらそう呟く彼の表情は伺う事は出来なかった。しかし力強く拳銃を握りしめたその手と声のトーンから、彼の心情は伝わってくる。

「……俺には、無理だ。あいつらの、あいつら全員の命を背負って生きていくなんて……!」
「だから、死ぬの?」
「……ああ」

ふ、と前を向いた南の目と視線が交わる。そこに光はない。
光のない視線は地面に倒れている屍を見渡した後、再びこちらへと向けられた。

「……こいつら皆、生きたかったんだ。そんな強い強い気持ちを持ったまま、死んじまった」
「……うん」
「無理だよ俺には……重すぎる…っ」

南はそう言って苦笑を浮かべると、拳銃を握ったその手をだんだんと自らの頭へと持ち上げた。やがてこめかみへとたどり着く銃口。

「ありがとな、千石」
「何が?」
「……何が、だろうな。分からない。ただ……ただお前には、一言礼を言っておかないといけないような気がする」
「……そう」

こちらこそ、ありがとう。
そうしてお互いに笑みを交わした後、南の身体は地面に倒れ込んだ。乾いた破裂音が響いた直後の事だった。

「……馬鹿だな、南」

馬鹿だ。
俺は生きるよ。死にたくないんだ。まだまだ生きていたい。
だからこの手で人を殺めてきたし、これからもそうする。命だって背負うよ。何人分だろうが何十人分だろうが背負ってやる。

「……生きるためなら」

倒れたままの南の手に収まる拳銃を抜きとり、ギュッと握りしめる。
そうして俺は、再び歩き出した。
またこの手を汚す事になろうとも、またこの背中に重しを積み重ねる事になろうとも。
この歩みは決して止めない。

……さあ、ゲーム再開だ。





おばかちゃんとおりこうちゃん

(自ら命を絶った者)
(自らの命のため他の命を絶つ者)
(本当の馬鹿はどっち?)
(……答えなんて、分からない)




 

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