お題小説

□見たくないから目を塞いだ
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大切な仲間だった。
大好きな親友だった。
それなのに、もうあの楽しかった日々は戻らない。
俺は自らの頬を伝う涙を拭った。
肩に負った刀傷を庇いながら、近くにあった木の根元に座る。体のあちこちにある擦り傷や切り傷が痛んだ。

「くそっ…」

なぜ、こんな事になったのか?
今さらだけど、あの時このゲームに参加する事を拒んでいればこんなにも残酷な世界を見ずにすんだんだ。
あの時ただ一人ゲームへの参加を拒否した親友。お前はこうなるって分かってたのか?

「なぁ、ジャッカル…」

自分よりも一足早くこの世から消えてしまった親友の姿を思い浮かべながら、俺は襲いくる睡魔に身を委ねた。







目が覚めた時、空の真上に昇っていた太陽はすでに沈みかけていた。かなり長い時間眠ってしまっていたらしい。
…いっそのこと、眠っている間に誰かが殺してくれればよかったのに。
そんな事を考えながら少しの間ぼーっとしていると、前方から誰かが歩いてくるのを確認できた。
…逃げようとは思わなかった。

もう、見たくない。
見たくないんだ。
狂っていくお前達の姿。
真っ赤に染まった仲間の亡骸。
またあんなものをみるくらいならば、いっそ―――

「(―――いっそ、殺してくれ)」

前方から歩いてきた人間が俺の前で立ち止まる。手にはでっかいマシンガンをもっていた。
さっきから響いていた銃声はこのマシンガンのものだろうか。
相手を見上げ少しばかり霞む視界にその顔を映した。

「…死んでるんスか?」
「…赤也か」
「なんだ、生きてるんスか」

赤也は、丸井先輩も案外しぶといっスねー、なんていいながらマシンガンをこちらに向けた。

「…逃げないんスか?」
「…殺したきゃ殺せ」

俺はかろうじて動く左手で両目をふさいだ。

「…なんのマネ」
「…なんだっていいだろぃ?」
「あっそ…あ。先輩、俺先輩達の事、大好きでしたよ」
「!!……俺もだ」
「そっスか。それ聞けて良かったっス。それじゃあ……さよなら」

赤也の"さよなら"が、いつもの部活を終えた後の"さよなら"と同じだったから、なんだか涙が滲んできた。
でもその涙が頬を伝う前に、俺の意識は暗転した。





見たくないから目を塞いだ

いつもと同じ"さよなら"を

今までと全く違う姿で口にするお前を

俺は、見たくなかったんだ



2010.8.13
 

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