お題小説

□ガリガリガリ
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ガンッ。
「つっ…」
校舎裏にある廃棄予定物を保管する倉庫。俺はその壁に叩きつけられた。
じんじんと痛む肩を手で押さえ、自分よりも少しばかり背の高い先輩を見上げる。
「…何、するんですか」
見下ろしてくる氷のような瞳に若干気押されながらもなんとか呟く。先輩、跡部部長はスッと目を細めた。
「何するんですかだと?……そりゃこっちのセリフだ」
「は、」
跡部さんはそう言うと、さっきぶつけた方とは逆の肩を掴み、俺の体をグイっと壁に押し付けてくる。
「いっ…」
「テメェさっき誰と何話してやがった?」
「何って……」
さっき。
ここで壁打ちをしていた俺は、1人の女子に告白された。真剣な様子だったが、考える間もなく俺の答えは決まっていたので断った。
俺には今テニスがあるからと。
相手も理解してくれたのだろう、最後は笑顔を浮かべてくれた。正直な話しこういう話しをされる事は何度かあるが、断って素直に引き下がってくれる奴は少ない。だからそいつにはちょっといい印象を抱いて、去り際に「ごめん、ありがとう」と声をかけた。
それから俺は再び壁打ちを再開したが、数分した後跡部さんがやってきてこの有り様だ。
「…アナタには関係のない事です」
「…ほう」
眉を寄せ跡部さんと視線を合わせてそう答えると、彼はうっすらと口元に笑みを浮かべた。
「関係ない?いや関係あるな。……テメェは俺様のモンだ、そう言ったろ?」
「だからそれについては断っ…ん!」
無理やり押し付けられた唇。ガチッと歯があたって痛みが走った。

2週間ほど前だろうか、ある日突然跡部さんに想いを伝えられ、いきなり俺様の物にすると言われたのは。
俺はもちろん断った。相手が女子だろうが男子だろうが先輩だろうが後輩だろうが、あの跡部景吾だろうが、俺には今テニスだけだ。
しかしこの先輩は引き下がらなかった。
俺が誰かと話しをするたびに邪魔に入り、談笑しようものならば今日のようにとまではいかないが、この氷の瞳で睨んでくるのだ。
「っ…」
ドンッと跡部さんの体を突飛ばす。跡部さんは体を離し、少し血の滲んだ唇を手の甲でぬぐった。
……抵抗しても無駄だ、と、余裕そうに笑みを浮かべる彼の顔はそう物語っているようで、なんだか物凄く悔しくてギリッと歯を食いしばる。
「お前は俺から逃げられない」
「…っ」
彼はそう言い残すと、ブレザーを翻し颯爽とその場を去っていった。

「…くそ…っ」





ガリガリガリ
(壁を引っ掻いた爪が)
(やけに痛んだ)


 

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