お題小説

□斜め後ろの景色は綺麗でした
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もう、どれくらい走っただろうか。
上空に昇っていた太陽は海の中に沈もうとし、空を朱色に染めている。



足はすでに棒切れのようだ。
スタミナはもう底を尽きたし、体は草木で傷だらけだ。それでも俺は走っている。
…あいつから逃げるために。


走り続けた俺は薄暗い森から拓けた明るい場所に出た。
前方に広がるのは朱色に染まった大きな海。
…島の端まで追い詰められてしまった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ…。くそくそっ、なんだってんだよ!」


どこか逃げられる場所はないか探そうと思ったその時、あいつは後ろに迫っていた。


「がーくと、もう逃げらんないよ」

「ジ、ジロー…」


森の中から現れたソイツ、ジローは、血のこびりついた鉈をこちらに向けてゆっくりと歩いてきた。


「(あんなに走ってたのに…!!)」


汗をかき息切れをおこした俺とは正反対に、ジローは全く息を乱すことなく俺についてきていた。


「岳人、皆と同じとこに行きたいでしょ?皆に会いたいでしょ?」

「なんで…なんでだよジロー…。俺ら、仲間だったじゃねぇかよ!」


皆で逃げよう、またテニスをしよう。そう話す中、一人、また一人と減っていった仲間達。
…皆、大切な仲間だったんだ。


「だった?俺は今だって仲間だと思ってるC」

「じゃあなんで…!!」

「仲間だから、かな…」


ジローは一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに不敵な微笑を浮かべて俺に迫ってくる。


「バイバイ、岳人」


崖の淵まで追い詰められた俺は、疲れきっていた事もあってか、いとも簡単に突き落とされてしまった。


空中で頬に落ちてきた水滴の主の顔は全く見えなかった。
だが自らの後ろを振り向けば、大きな海と綺麗な夕焼けが目に入った。






斜め後ろの景色は綺麗でした

この美しい景色が

あの汚い世界の一部だなんて

馬鹿馬鹿しくてなんだか笑えた



2011.1.31.

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