お題小説

□馬鹿みたいに楽しい
1ページ/1ページ


「おい!誰だ俺のロッカーにエロ本入れたの!!忍足か!?」
「はあ?んな訳ないやん」
「じゃあてめえだろ岳人!」
「は!?ちっげーよ!鳳じゃねえの?」
「なっ……ち、違いますよ!宍戸さんも落ち着いてください!」

こいつらが部活終了後部室の中で騒ぎ出すのは結構毎度の事だ。
周りにいる日吉や跡部は騒ぎがおきる度に呆れながら迷惑そうにしてるし、ジローはこの騒音の中でも簡単に眠りにつく。
樺地は少しオロオロしながら止めようか止めまいか迷っているが、跡部が放っておけと指示を出して結局は止められずじまい。

そして俺はそんな部の皆を観察する。これがまた以外と面白い。

ずっと続いてきたこの日常も、いずれ消えてしまう。
そう考えると無性に悲しくなる。寂しくなる。だから俺はなんとかしてこの時間を止められないかと考えるけど、やっぱりそれは無理な話な訳で。

「……なんか、寂しいなあ」
「あーん?何がだ」
「もうすぐ卒業だから、さ」

そう言うと皆は決まって高等部もあるだろと言うけど、もしかしたら外部受験する奴もいるかもしれないし、それなりの歳になれば友達より恋愛を優先するようになるかもしれない。

「……だから、やっぱり寂しい」
「……バカだな、お前も」

跡部はいつも通りの冷めた表情で吐き捨てると、今まで書いていた部日誌をパタンと閉じこちらを見据えた。

「んなもん、またいつだってこうして集まればいいだろ」
「でも……」

跡部はそう言うとフッと微笑み、

「生きてる限り、100%会えないなんて事はねえんだよ」

同じ時空に生き同じ世界に住んでいる限り、またいつだって会える。
跡部はそう言うと荷物を持って立ち上がり、未だ騒いでいるあいつらに声をかけ始めた。

「おらテメエら、鍵締めるぞ」
「やばっ、まだ準備終わってねえ!」
「遅っ!早くしろよ岳人」
「何やっとんねん全く……」

皆が荷物を持って外へ向かう。
ジローは相変わらず眠っていて、その身体を樺地に預けていた。樺地はそんなジローを文句言わず担ぎ上げて運び、日吉は岳人に絡まれて文句を言いつつもそれを少しだけ楽しんでいるように見える。
忍足と宍戸はまだ宍戸のロッカーに入っていたエロ本の話で口論中で、鳳は必死になだめようとしながらもその波に巻き込まれていた。

「なあ萩之介……確かにいつか俺達にも、バラバラになる時は来るだろう」
「跡部……」
「でもよ、そんな先の話するよりも、今を楽しんでおかねえと後で後悔する。……そうは思わねえか?」

辺りを夕日が照らす中、前を歩く皆の背中を見つめる。
そしてそこにあるのは、笑顔、笑顔、笑顔。

「……そう、だよね」

未来を描いて悲観的になるのは簡単。でもそれじゃ"今"を楽しむ事なんかできないし、いつか後悔する事なんか目に見えてる。

いつか離れ離れになる。それは当たり前で。
でもその時が来るまでにどれだけここにある"今"を楽しめるかが大切なんだ。

「跡部……ありがと」




馬鹿みたいに楽しい
(今あるこの時間を)
(大切にしたい)
(そう、思った)



2012.7.29
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ