お題小説

□言っておけば良かったね
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「俺は…貴方の事が好きです。男同士でこんな感情を持つなんておかしいって分かってる。それでも…宍戸さん、俺と付き合ってくれませんか?」
「長、太郎…」
「……あは、いきなり言われても困りますよね。すみませんでした。…でも俺、返事をくれるの待ってますから」

それじゃあまた明日、と言って、長太郎は走り去った。
正直なところ、俺も長太郎の事を気にかけていた。…と言うか、たぶん好きなんだと思う。

でも、俺は迷ってしまった。

さっき長太郎が帰ってしまう前に俺の気持ちも伝えようかとも思った。
でも、心のどっかに、この想いは伝えるべきじゃないと言っている自分がいた。
俺達は男同士。周りの人間も、世間も、こんな俺達を認めてくれるのか?
俺に想いを伝える長太郎の姿は真剣そのものだった。けれど…。

俺は頭がその事でいっぱいの状態で帰宅した。
…結論はまだ出て来なかった。






次の日。
朝練のない今日はいつもより余裕をもって起床した。

「はぁ…」

学校に行けば長太郎に会う。それ自体、嫌という訳ではない。だが正直どんな顔をして会えばいいのか分からなかった。
無意識にでた溜め息に焦りを感じながら、それを誤魔化そうと歩くスピードを少し上げた。






放課後。
今日はまだ長太郎にあっていない。
俺は安心したようななんと言うか、複雑な気持ちのまま部室へと足をはこんだ。

「ちーっす…」
「宍戸!!」

部室の扉を開けた瞬間に腕を引っ張られる。
部室には全員がそろっていたが、その場の全員の顔が暗く沈んでいる。

「お、おい…お前らどうしたんだ?」
「宍戸、落ち着いて聞け。…鳳が、学校に向かう途中に事故にあったそうだ」
「……は?」

神妙な顔で俺の目の前に立つ跡部の言った事を理解できなくて、俺は間の抜けた声を出してしまった。そんな俺を見た若が跡部の言葉を引き継いで話だした。

「鳳のお母さんから聞いた話によれば、鳳は熱を出して、今日は休むつもりだったそうです。それが午後になって、熱が下がったから今から学校に行くと言って家を出たその途中で……」
「…長太郎は」
「…第三総合病院です。俺たちが聞いたときにはまだ手術中でしたが…」

第三総合病院。
その言葉を聞いたとたんに、俺は走りだしていた。
今までにないんじゃないかと言えるくらい、必死に走った。すれ違う奴らが振り向いて俺の事を見てこようと、全力で。






第三総合病院に着きナースステーションで長太郎の病室を聞き、再び走り出した。すれ違った看護師や医者に注意はされたが、そんなものは気にしていられなかった。

息を切らしながら長太郎の病室の前に着く。緊張して動かない体を叱咤して扉をノックした。
どうぞ、という返事を確認し、扉を開けた。

「……長太郎」

そこには、たくさんの管や機械に繋がれ包帯でぐるぐる巻きにされた長太郎がベッドに横になっていた。長太郎のベッドの周りには長太郎のお母さんとお父さん、そして医者と看護婦がいた。
呆然と立ち尽くす俺に長太郎のお母さんが話かけてくれた。
……彼女の顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。

「宍戸君、わざわざ来てくれて…ありがとう」
「お、おばさん、長太郎は……」
「…ごめんね……っ駄目、だった…っ」

…駄目?駄目って、なにがだよ。

再び涙を流すおばさんの横を通りぬけ、長太郎に近づく。

「おい長太郎…なんだよ、お前学校行こうとしてたんじゃねえのか?…なあ長太郎!!起きろよほら、練習行くぞ!!」

いくら長太郎の体を揺すっても、長太郎は目を覚まさなかった。






なんでだよ。
お前言ったよな?俺の事が好きなんだって。
俺もお前の事が好きなんだよ。
なあ、長太郎。



こんな事になるんなら―――






言っておけば良かったね

(思ってもいなかった)
(もう二度と)
(会えなくなってしまうだなんて)



2010.10.4
 

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