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こ…れ…は……ッ!!?

いや、べっ…別にわざととかそういうんじゃなくて!

だってタオルが無くて、乾してあるのを取りに来ようと思って…。

そしたらルルーシュの…!

ルルーシュの…ぱ…パンツとブラジャーも一緒に乾してあったってだけで…!

だからこれは完全に不可抗力というか!

ほんとに!


…まあ、全く期待しなかった訳でもないけど…。

…でもルルーシュってこんな下着着けるんだ…!

だってこのパンツ…紐じゃないか…っ。

なんか清楚そうな雰囲気なのに、下着がこんなに…とか、もう流石だよ。

…欲しいな。

これ、貰ってもバレないだろうか…。

…って何考えてるんだ俺!

最低だ最悪だ!

…いやでも、目の前に好きな子の下着って、健全な男子高生にとっては刺激が強過ぎるだろ…。

女の子っていくつ位下着持ってるのかな?

…俺ならパンツが一枚位無くなったって気付かないと思う…。

…ってだから、そういう問題じゃないだろ俺!

何手を伸ばしてるんだ!!

「……───っ」

俺はキラキラと光を放って見えるルルーシュの下着に背を向けた。


触んなかった。

これでも頑張ったんだ…!

…だから一瞬魔が差したのは大目に見て下さい……。





「あ、パンツ!」

突然のミレイの言葉に、ルルーシュとシャーリーはぎょっとした。

「か…会長?」

シャーリーが少し痛い視線をミレイに向ける。

何故ならここは、ショッピングモールの中なのだ。

ルルーシュも恥ずかしそうに俯く。

「ほら、あれよ、あれ!」

そんな二人も全く介せず、ミレイは元気よく一点を指差した。

「あ…」

ルルーシュもシャーリーもはっとしたように呟く。

ミレイの人差し指の示す先には、ハートとピンクで溢れ返った特設コーナーが在った。

「そっか、もう二月かぁ…。ルル、今年もあげるね!」

「ありがとう!私もあげるっ」

シャーリーとルルーシュは手を取り合ってはしゃぐ。

「ねぇ、あたしには?」

ずいとミレイが顔を割り込ませる。

「もちろん、あげますよっ」

「当たり前じゃないですかっ」

即答した二人を同時にミレイはぎゅっと抱き込んだ。

「可愛い子達じゃ!」

と、皆ときゃっきゃと騒いでいたシャーリーの動きが止まる。

数多くのチョコレートの中に一際目立つのが、そのシャーリーの視線の先にある、男性用の下着だった。

「だから言ったでしょ?パンツって」

「最近はこんな物あげるんですね…」

微妙そうな声でシャーリーが応える。

「女の子に下着あげるってのは前からあったけどね…って何恥ずかしがってんのよっ」

それまで一人黙って、マネキンもろくに直視出来ないでいるルルーシュの肩を、ミレイが叩く。

「あんたもあげてみたら?」

「なっ、何言ってんですか!」

意地悪そうに笑うミレイにルルーシュは真っ赤になって反抗する。

「ねぇ、そういえば今日もお母様の買ったハデカワ下着穿いてんの?」

「やっ、ちょっと!!」

制服のミニスカートの端を掴んだミレイの指をルルーシュは慌てて振り払う。

「…だって、勝手に買ってきて、いっぱい蓄めてあるから、しょうがなく…っ」

「あーもう、あたしが悪かったから!泣かないのっ!」

家のクローゼットに蓄められた多くの衣類の中に、ミレイが選んだ物が含まれている事を、ルルーシュはまだ知らない。





「おいスザク、今年も頼むぜ?」

「何の話?」

リヴァルの唐突の言葉に、スザクはぽかんとして問い返す。

「何ってー!バレンタインに決まってんだろ!?もう二月じゃん!」

「あぁ…」

確か昨年は、欲しがるリヴァルに鞄に入り切らなかったチョコをあげたのだ。

女の子達には悪い気もするが、リヴァルはそれを有効活用していたようだし、食べきれず捨ててしまうよりはいいだろうと思ったのだ。

「あぁ、って!これだからモテる奴は余裕だよなぁ。どうせ今年も溢れる位貰うんだろ?」

「そんなの分からないよ」

「いいや、貰うね!お前が貰わなかったら誰が貰うんだよ」

二人ははっとして同じ方に視線を向けた。

…紅月カレンだ。





…バレンタインか。

そう考えてスザクが一番に思い浮かべるのは勿論ルルーシュの事である。

リヴァルの言う程、自分もそう余裕でいる訳ではないと思う。

確かに昨年はそれなりの数は受け取ったかもしれない。

けれど、その中には義理チョコが沢山あるし、(手紙や言葉等の無い物を義理と判断)軽い感じで渡してくれる女の子達は、他の男子にだってあげている。

それに友チョコという物もあるようで、そういった物をいちいち断るのも逆におかしいかと思ったのだ。


…しかもそれは去年の事だよ。

今年も貰えるかどうかなんて分からないじゃないか。


そう、逆にバレンタインというイベントは分からない事だらけなのだ。

ルルーシュは小さい頃から毎年手作りのチョコレートをくれる。

当然ながら、好きな子のくれるチョコが一番嬉しい。

ルルーシュがくれるなら、本当の事を言うと、他はいらないとさえ思う。

しかし、成長して、子供の頃と全てが変わっていくに連れて、それがいつまで続くのかと考えると不安になった。

そして逆に、続いている事にも不安になる。

ルルーシュだって友達同士で交換しているようだし、もしかしたら他の男にあげたりもしていたかもしれない。

…うわ、嫉妬がやばい…っ。


小さい頃からあげているから流れで、とか、寧ろ、バレンタインというチョコレートを贈るイベントで、幼馴染みという枠の中で形式に則っているだけかもしれないのだ。

お義理…なんだろうか…。

…でも僕に渡してくれる時のルルーシュ、最近特に、物凄く可愛いんだよな…。

…まぁ、大好きな人から貰えるだけ幸、せ…?





今年はナッツのチョコブラウニーを作ろうかな。

そう思って買ってきた材料をルルーシュはダイニングテーブルの上に並べた。

…今年は本命の人が家にいるんだ…。

作ってる所を見られちゃうのはしょうがないか。

…でも幼馴染みで良かった。

ルルーシュはバレンタインの度にそう思う。

あまり恥ずかしいだとか、そういう感情の芽生える以前の年齢からチョコを渡していた事により、渡しやすくなっていると思う。

…それでも最近すっごく緊張するけど。

…皆はすごいな、好きな人に告白出来て…。

……私も今年は告白してみようかな…。

…スザク、す…

…やっぱり無理ぃっ!!

ルルーシュは真っ赤になった顔を手で覆って伏せた。


スザクは今年も沢山貰うのだろうか。

去年すごかったしなぁ…。


…え?

ルルーシュは突然胸に走った痛みに動揺する。

また……。

以前はこんな事は無かった。

スザクは輝いた人だし、誰もが好きになる事を理解していた。

他人のスザクに対する好意を自分が好ましく思わないなんて、そんな自分勝手な感情は、自分で持つ事を許さなかった。


…駄目だ、私、最近どんどん欲張りになってる気がする…。

…気持ちが押さえられないよ…。

この胸の痛みももう、今となっては幾度も経験してしまった。

…違う、ずっと自分で気付かない振りをしてただけ…?

「………っ…」

目の辺りに熱が集中する。

堪え切れず涙が頬を伝って落ちた。

「……ふ…ふぇぇ…」

…嫌だっ。

スザクが他の女の子の気持ちを受け取るなんていや…っ!

我儘だって分かってるけど、実際はそんなの無理って知ってるけど、いやなの…っ!

…スザク…っ。

スザク、好き……。


それからしばらくルルーシュは涙を零して、やがて落ち着きを取り戻した。


……私、まさか泣いちゃうなんて…!

ルルーシュは自分の行動を振り返り、驚くと共に妙に恥ずかしくなった。

…恋をすると、自分で自分が上手くコントロール出来なくなっちゃうのかも…。


…スザク、今年も喜んでくれるといいな…。

去年のスザクの嬉しそうな顔を思い出し、ルルーシュは泣いた後で少し情けない顔ではあるが、照れたような微笑みを洩らした。

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