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「…すざく…スザクっ」

心地好い声音が、スザクの意識をゆっくりと浮上させる。

…ん……?えっ、ルルーシュっ!?

スザクはルルーシュの声で眠りから目醒めはしたが、この状況が理解出来ず、目を開いてルルーシュと顔を合わせる事が出来ない。

何でルルーシュが俺を起こしに来てくれるんだ…っ?

寝坊は、してないはず…。

非常事態…でもなさそうだし…。

ルルーシュの手が両肩に触れ、緩く揺すられた。

「…ねぇ、スザク…起きて?」

うあああぁっ!!!

俺が非常事態…っ!!

下半身的な意味も含めて!!

だから朝、寝起きの雄の前でそんな無防備じゃいけないってばルルーシュ!!!!

「ん…、ルルーシュ、どうしたの?」

スザクはこれ以上の寝た振りは色々な意味で危険と感じ、漸く目を開いた。

…このまま寝た振りを続けたらどうやって起こしてくれるのか気にならないでもなかったけど…。

ってうわ!

ルルーシュ近い…!

胸もくっついちゃいそうだよ…!?

あわわわっ落ち付け、俺の心臓と下半身!!

「あ…、おはようスザク。起こしてごめんね?」

そう言ってルルーシュは皿に綺麗に並べられたココア色の焼き菓子をスザクの目の前に出した。

「あの…、今日バレンタインでしょ?チョコブラウニー作ったの…。あのね、スザクには焼きたて…食べてもらいたくて…」

部屋が薄暗くてはっきりとは分からないが、ルルーシュの頬はふわりと染まり、緊張しているようにも見える。

…可愛いなぁ。

「…ありがとうルルーシュ、すごく嬉しい」

スザクは甘味を口に運び、不安気に見つめるルルーシュに、頬を綻ばせた。

「美味しい…」

「よかったぁ…」

スザクの言葉に安心したのか、ルルーシュもふわりと笑みを浮かべた。

…可愛い。

俺に焼きたてが食べて欲しくて、ここまで運んでくるとか、すごく可愛い。

…今すぐその華奢な身体を抱き締めたい。

抱き締めてそのままベッドに押し倒してしまいたい。


……いつか必ず、ね。





…スザク、嬉しそうだった。

早起きして作って、ちゃんと渡せて、良かった…。

焼きたてというのもそうだが、誰の物より先に受け取って欲しかった。

…これ位の我が儘なら許してくれるかな…?

ルルーシュは、はにかんだ笑みを零した。





「あ、リヴァル、会長」

スザクは走って入った生徒会室で、二人の姿を見受けた。

やば…お邪魔だったかな…。

「…スザク、これ余ったんだけど…いる?」

スザクが入った事を少し後悔していると、ミレイが綺麗にラッピングされた袋を、片手で無造作に取り出した。

その瞬間、リヴァルの目が僅かに見開かれたのは、スザクもさすがに見落した。

「あ…すみません、お気持ちはありがたいんですけど、今年はルルーシュからしか貰わないって決めたんです…」

今年は、思い込みだとしても、何となく他の人とは違う、特別を貰えた気がするので、スザクはこちらも誠意で応えたいというか、兎に角、他は受け取る必要が無いと思ったのだ。

「えーっ!?俺との約束は!?」

リヴァルが信じられないというような声をあげた。

「ごめんリヴァル、他を当たって?」

今も丁度スザクはここへ、女子から逃げてきたところだったのだ。

「そ。じゃあ仕方ないわね。…ルルーシュきっと喜ぶわ」

「そっ、そうですかっ!?」



スザクが出ていった後の沈黙で、リヴァルが徐に口を開いた。

「…会長、それ俺に下さいよ」

「…だーめ。あたしが食べるんだから」

何か言いた気なリヴァルにミレイは溜め息を吐いた。

「…さっきの聞いた?ああいうところがいい男なのよ」

「俺だって!」

ミレイの言葉にリヴァルが声を荒げる。

「俺だって、会長のさえ貰えればそれで…」

ミレイは再び溜め息を吐いた。

しかし今度は先程より少し明るい溜め息だった。

「…半分ならあげるわ」





「ルルーシュ、一緒に帰ろう?」

「う…ん…」

駆け寄ってきたスザクにルルーシュは歯切れの悪い返事をする。

この日、スザクに用のある女子が沢山いるのは、目に見えている。

スザクは気付いていないのだろうか、今だって、後ろからの視線が痛い。

…これじゃ私、本当に皆の事邪魔してるみたい…。

「枢木君っ!」

そんな中でも、数人の女子が走ってきた。

ルルーシュはドキリとする。

でも、受け取っちゃうところ…見たくはないな。

スザクは誰にでも優しいので、基本的に、人を傷付けるような事は絶対にしない。

「あの…!ずっと好きでした…っ!」

真ん中にいた女子がスザクに箱を差し出す。

人通りの多い場所で、隣に女を連れた男に堂々告白するとは、凄い度胸だ。

ルルーシュは居心地が悪くて仕方なかった。

「…ごめんね、君の気持ちは受け取れない」

スザクはやんわりと、しかしはっきりと即断った。

他には何も、それ以上の詫びも、弁解も慰めの言葉も無い。

あっさり振られてしまった女子は、わっと泣き出して走り去ってしまった。

ルルーシュは胸の奥がズキッと痛むのを感じた。

自分も泣きたいような衝動に駆られる。

「あのっ、私達の…義理と思ってもらえればいいから…」

取り敢えず受け取って欲しいと、残っていた女子が次々に包みを差し出す。

「うん、でもごめんね…今年は義理でも受け取れないんだ」

「そ…そう…」





帰宅路、ルルーシュは正直驚きを隠せないでいた。

義理まで断るとは夢にも思わなかった。

自分のいないところで渡されたチョコはどうしたのだろうか。

…私のはちゃんと受け取ってくれた。

ベッドまで運んだ焼きたて以外にも、包み直した物もスザクは笑顔で受け取った。

…一緒に住んでるし、雰囲気悪くしたくなかったから…?

そう、スザクはすごく優しいから…。

だから、あんなにばっさりと女の子達の好意を切り捨てるスザクに驚いたのだ。

「…ルルーシュ?」

黙りこくったルルーシュにスザクが心配そうに声を掛ける。

「スザク…あのね」

…今日他のチョコは貰ったの?

…どうして私のは受け取ってくれたの?

………。

「…朝私の…」

ルルーシュは柔らかい笑顔を向けた。

「貰ってくれてありがとう」

「えっ、いや、こちらこそありがとう。嬉しかったよ?」

その笑顔にルルーシュはいつものスザクを見付けた。


理由はどうであれ、この事実がルルーシュにとって嬉しい事に変わりはなかった。

ルルーシュは言い知れない喜びと期待に鼓動を高まらせた。

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