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〜キミカルテ〜
これで一通り済んだな。
俺は一仕事終えた晴れやかな気持ちで掃除機を仕舞い、開け放していた窓を閉めた。
しかし今日は暖かく、風も心地好いのでやはり半分開けておく事にする。
リビングの観葉植物にも水をあげたし、後はスザクを待つだけだ。
今日は午後からスザクが家に来る予定である。
買う時に拘って選んだ、お気に入りの大きめなソファーに腰掛けると、柔らかい風がさらさらと俺の髪を弄んで流れる。
嫌ではない疲労感が身体を包んだ。
今週は学校で仕事が忙しかった。
その上に今日張り切って掃除をする必要はなかったのだが、やはりスザクが来ると言うからには部屋をきれいにしておきたい。
…性格だな。
忙殺の為、放課後スザクとも余り話せていない。
すごく久し振りな気もする。
元々それ程働いていなかった頭だが、午後の日差しの中でそんな事をぼうっと考えていると、いよいよ睡魔は俺を誘い、気付かないうちに眠りに落ちていた。
「あれ…?」
スザクはドアの前で首を傾げた。
インターホンを押せども、ルルーシュの出てくる気配は無い。
今日は行くと告げてあった筈だ。
スザクが試しにドアノブに手を掛けると、鍵がかかっていない事に気付く。
スザクはソファーに座ったまま眠っているルルーシュを見付けて納得した。
…今週はあんまり話せない位忙しかったみたいだからな…。
インターホンのチャイムにも気付かない程深い眠りに落ちているルルーシュを見て、スザクは折角の休日に悪い事をしてしまったかと少し悔やむ。
…こういう相手の事情まで考えられる位、大人になりたい。
ルルーシュは特に、辛い事も言ってくれないから…。
スザクはルルーシュを起こさないようにそっと隣に腰掛けた。
そしてまじまじと恋人の寝顔を見つめる。
やはり見る程に美しい顔立ちだった。
長い睫毛は頬に微かな影を落とし、すっと通った鼻筋と柳眉が、悩ましい程整っている。
いくら眺めても、飽きる事等無い。
スザクは知らず、微笑みを浮かべていた。
幸せだと思う。
こんなに美しい人を恋人に出来て。
美しいだけではない。
その内面を、人間を知る度に、好きという気持ちは益々大きくなる。
そして障害は普通の恋よりもずっと多い筈だが、こうも好きな人から、確かな愛を感じている。
そんな今を、そしてこれからも大切にしていきたい。
だからこそ、少しでも釣り合うような人間になりたい。
…ルルーシュが安心して自分の事を任せられる位に早く成長しなきゃ…。
スザクもまた閑かな午後の日差しの下、自然と沈んでいく意識の中で、改めて心に誓った。