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「クリスマスだからクリスマスケーキ作り。別にどこも変じゃないでしょ?」

「だから、何故それをくじで男女のペアを決めてやる必要があるのかと聞いているんです、会長」

スポンジの乗った皿を慎重に回しながら少々不貞腐れ気味のスザクを、ミレイはそのスポンジにナイフでクリームを塗りたくりつつ、ちらと見やる。

「なーに拗ねてんのよ。あたしとペアじゃ不満だって言うの?」

「別にそういう訳じゃ…」

「アラザン取って」

スザクは渋々と、しかしながら機敏な動きで銀色がキラキラする袋を手渡す。

「まぁ、あれ見せられたら分かんないでもないけど…」

そう呟いたミレイの視線は、味音痴のリヴァル、破壊王のシャーリー、調理より解剖のニーナの阿鼻叫喚の三人組を通り越し、ルルーシュとカレンに向けられた。



「あっ、可愛い」

「そ、そうか…?」

カレンがケーキに施す装飾をルルーシュは手を合わせて喜ぶ。

「ブッシュ・ド・ノエルもいいかなと思ったんだけど、やっぱりこういう生クリームのも定番でいいよね。チョコのはスザク達が作ってるし」

「ああ、莓とかラズベリーのデコレーションが映えて可愛いと思う」

談笑しながら、生クリームのホールに二人して鮮やかな果実を次々と盛っていく。

「ねぇ、もしかしてお菓子作りの腕も上がったりした?」

「…まあ、少しだけ、な」

「ほんと?やったね!」


ルルーシュに、秘めた淡い恋心を抱くカレンには気の毒だが、例えるならば女子同士の様なやりとりも、しかしスザクから見れば会話の内容が聞こえない分も余計に、恋人同士のそれにしか見えない。

「…………」

「あーあー妬いちゃって。あんたせっかくのクリスマスパーティーをそんなぶすっとして過ごすつもり?ほら、あたしがよしよししてあげるから」

そう言ってミレイはスザクの頭を抱き込み、ぐしゃぐしゃと撫でる。

「ちょっ…かいちょ…」

「あーっ!!そこ、何やってんスか!?」

と、リヴァルが一番に気付き、すかさず止めに入る。

「スザクがむくれてるもんだからさあ」

ルルーシュとカレンもそちらの方へ視線を向ける。

「あ…」

ミレイの腕の中のスザクとルルーシュの目が合う。


え…っ?

すい、とルルーシュに目を逸らされた気がして、スザクは動揺する。

「もぉー、リヴァル遊んでないでこっち…きゃあーっ!」

後ろを振り向きながらクリームを混ぜていたシャーリーが、ボウルから中身をふっ飛ばす。

それは宙を舞い、その飛沫がルルーシュの頬に散った。

「きゃ…」

「もー何やってんのよっ、シャーリー」

ミレイが笑い半分呆れ半分に声を掛ける。

スザクは瞬きする事も忘れてルルーシュを凝視していた。

ルルーシュ!!!

クリームとか君、色んな意味で美味し過ぎるよ!!

と、同時に隣で顔を赤らめているカレンも目に入る。

「だ…大丈夫か?」

「うん…ありがと」

スザクは言葉にならない叫びを上げた。





その後、個々のグループで出来上がったケーキと、出前物を皆で囲んだクリスマスパーティーとなり盛り上がったので、各々が帰り支度を始める頃には、すっかり陽も暮れていた。


「あら、飲み物が余っちゃったわね…。皆一本ずつ持って帰んなさい!」

「よっしゃラッキー」

「ほら、あんたんとこも、ルルーシュの分と二本」

「あっ、ありがとうございます」

スザクはルルーシュの瓶もミレイから受け取り、鞄の中にしまった。



「帰ろっか、ルルーシュ」

「うん」

深い紺の冬の空には、欠片の様な星がチカチカと瞬いている。

「…イルミネーションとか、見て帰る?」

「見たいっ」

二人は笑顔を合わせた。





「キレー…」

ルルーシュとスザクは、普段の通学路から外れて、街の方へ出てきた。

この時期は、店の外装も通りも魔法に掛けられたように光り輝いている。

「ルルーシュ、楽し?」

「うんっ」

スザクはルルーシュの顔を覗き込み、幸せそうに細められた眼に周りが反射して、明るい光が沢山宿っているのを見て、ドキッとした。

ルルーシュと居れば、顔に当たる、冷たい冬の空気を吸い込むのも楽しく感じられる気がする。


…嫉妬とか大人気無かったかな…。

でも、好きだから妬いちゃうんだ。


この日のこの時間帯、擦れ違うのは、先程からカップルばかりだ。

…周りから見たら、俺達も恋人同士に見えてるのかな…?

たまに触れ合うコートの袖口に鼓動が高まる。

…手、繋ぎたいな…。

「…スザク?」

……でもまだ恋人じゃないんだよなぁ。

スザクはルルーシュに笑顔を返し、寒いね、等と言いながら少しだけ身体の距離を縮めた。





家に帰り着き、スザクは黙ってリビングにあるツリーの電飾を点灯させた。

ルルーシュも仄明るいだけの、控え目な照明を点ける。

「スザク、ちょっと待ってて」

そう言い残し、ルルーシュは自室に一度戻る。

「…はい、クリスマスプレゼント」

ルルーシュは柔らかい包みを手渡した。

「…いいの?」

嬉しそうに聞き返すスザクにルルーシュは笑顔で頷く。

ありがとうと呟き、スザクは包みを開ける。

「…これ、もしかして手作り?」

「…うん」

ルルーシュは照れたように頷いた。

スザクは到底素人には真似出来ないような綺麗な白いマフラーを優しく撫でる。

「気に入ってもらえると嬉しいんだけど…」

「君に手作りのマフラーを貰えるなんて…。温かそうだね、すごい…気に入った。…ルルーシュ、俺もあるんだ」

驚くルルーシュにスザクは鞄の中から小さな包みを取り出して渡す。

ルルーシュは繊細な造りのネックレスをケースから出した。

薄明かりの中でも、光を反射して、キラキラと輝いている。

「………!」

「…俺、アクセサリーとかよく知らないから、気に入ってもらえるか分からないけど、これはルルーシュに似合うんじゃないかって思って選んだんだ」

…本当は指輪なんかを渡したかったんだけどね。

「これ…、アメジスト?」

ネックレストップには、紫と透明の何面にもカットされた石が埋め込まれている。

「そう。君の瞳と同じ色だから」

「綺麗…。スザク…、ありがと…大切にする」

ルルーシュは目を潤ませてしまった為、俯いたまま呟いた。

「…貸して」

スザクはルルーシュからネックレスを受け取り、正面から首に腕を回して、頭の後ろで金具を止めた。

ルルーシュの鼓動が高鳴る。

「うん、…やっぱり似合う」

鎖骨の間に揺れる、フェミニンながら優雅なデザインは、少女と大人の狭間の色気を醸し出すルルーシュのようでもあった。

「スザク…」

スザクは鞄から、ミレイから貰ったピンクと水色のボトルを取り出した。

「…飲む?」

「ん…」

ルルーシュはシャンパングラスを用意しに、キッチンへ入った。


グラス同士を軽く交わす、涼し気な音が響く。

細かい気泡がラメの様に舞う薄水色の液体を煽ってスザクは堪らず少し笑った。

「…なんか、大人みたいだ」

ルルーシュもピンクのグラスを傾けて笑う。

「…それ、私も思った」

子供の頃や、生徒会のパーティーのような賑やかさは無いが、静けさの中に、満ち足りた幸せな空気が流れるクリスマスに感じられた。

それでもやはり焦がれるような少しの切なさを纏って。

「…暑い…」

「そう?」

突然呟いたルルーシュにスザクは首を傾げる。

帰宅してから暖房の温度は確かに上げはしたが、まだ普段のルルーシュならばどちらかと言えば寒いと言いそうな温度だ。

ルルーシュはブレザーを脱いで椅子の背もたれに掛けた。

「んー…」



「…ルルー…シュ?」

「なーに?」

「いやっ、なーにって…、何してるの…」

スザクはルルーシュをチラチラと見ては、慌てて目を伏せる。

ルルーシュはブラウスのボタンに手を掛けたまま小首を傾げて固まった。

白いブラウスの隙間から、下着のピンクのレースやリボンが見え隠れしている。

「だってー暑い…」

誘ってるのか!?

そうだな!?

そうなんだろ!?

違うと言うんだったらこれは一体何をしてるって言うんだ!!!

ピンクのレースとリボンがああぁぁッッ!!!

だってなんか顔も赤いし、とろんとしてるし、舌っ足らずだし…て待てよ?

「…ルルーシュ、ちょっとゴメン」

スザクはルルーシュのグラスに口を付ける。

かっ、間接キス……とか言ってる場合じゃなーい!

「…やっぱり」

…お酒じゃないかああ!!!

「…飲んじゃった?」

ルルーシュが胸元をはだけた姿で、目を潤ませながらはにかんで聞いてくる。

スザクの贈ったネックレスがほんのり色付いた白い肌に映える。

…飲んじゃいましたけど!

ルルーシュ、それは脱ぎ上戸なのか?

それとも誘い上戸?

どちらにしろ、危険過ぎるよ、君は全く…。

「…ルルーシュ、今日はもうお風呂とかいいから早く寝な?」

「えー」

本当はこのまま一緒にいたいけど、間違いなく俺の理性は吹っ飛ぶからね…。

それで、こんな状態のルルーシュに溺れて後悔はしたくないし。

「…ほら、歩ける?」

「スザク…っ」

スザクがルルーシュを立たせようとすると、ルルーシュはスザクの腕に絡み付いた。

「ルルーシュ…」

「スザク…」

「………っ」

官能的な表情で見つめ上げられ、スザクは堪らずルルーシュを抱き締めた。

…君、ズルいよ。

ほんと…ズルい…っ。

「………」

片手に収まりきる時間だけ抱き締めると、スザクはすぐにまたふわりとルルーシュを解放した。

「部屋…行くよ」

今度はルルーシュも素直に頷いた。

…ルルーシュは酔ってるだけだ。

ここに居るのが俺じゃなくても同じ事をしたかも知れない。

…こんな姿を見せてくれるのは俺だけって信じたいけど。

「ルルーシュ、おやすみ」

「うん…おやすみ」





「あ…」

…さっき抱き締めたの、ルルーシュ明日覚えてるかな…。

スザクは顔が熱くなるのを感じた。

と、ルルーシュに貰ったマフラーが目に入る。

スザクは人知れず優しい笑顔になり、丁寧にそれを畳み直した。

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