〜空白の一ヶ月〜



「…それは、君がブリタニア皇帝になるという意味かい?」

「ああ…」

「そうか…」

「………」

「………」

「………」

と、それまでの重々しい空気に似付かわしくない、緊張感の無い欠伸が響いた。

ルルーシュとスザクは揃って、沈黙を破った緑の髪の魔女に視線を向けた。

二対の視線を受けてC.C.は指に髪をくるくると巻き付けて答えた。

「お前達もそろそろ寝たらどうだ」

その呑気な言葉に数拍押し黙ってから、ルルーシュは諦めたような溜め息を吐いた。

「…そうだな。そうするか」

「ルルーシュ!?」

スザクが信じられないというような目を向ける。

「スザク、時間は無い訳ではない。そこまでは急を要する事でも無い。睡眠不足は判断力を鈍らせる原因になる。それに、いつどんな事態になるとも分からないからな。休養は取れる内に取っておくのが得策だろう?」

ルルーシュに理路整然とまくし立てられて、納得したのか、気圧されたのか、スザクも解ったという風に肩を竦めた。

「そういう事だ、枢木スザク。じゃあ寝るか、ルルーシュ」

「いや、ちょっと待ってよ、二人でどこに行くんだ」

何気なくルルーシュの腕を掴んで立ち上がったC.C.は、引きつった笑みで自分達を止めたスザクを馬鹿にしたような目で見、部屋のベッドを指差した。

「どこってベッドに決まっているだろう」

「ああ、スザクはそっちのベッドを使え」

当然のようにC.C.と一つのシーツに潜り込んだルルーシュにスザクは詰め寄る。

「だから、何で君達が一つのベッドで寝るんだ」

「何でって…、部屋に…、ベッドが二つしか無いだろう?」

目をぱちくりさせて答えたルルーシュに、スザクは取り繕う余裕の無さまで曝け出し始めた。

「だから!普通若い男女が一つのベッドで寝たりしないだろ!?」

「何を言っている、スザク。ここに年若い女性なんて居な…がふッ」

薄ら笑いを浮かべるルルーシュの言葉の途中で、C.C.は腹に一撃を喰らわせた。

「どうした枢木、やけにしつこいじゃないか、え?」

「それは…」

途端口籠もったスザクにC.C.はニヤリと口角を引き上げる。

「私がルルーシュと一つのベッドで寝るのがそんなに羨ましいか?」

「別に…!そんな事は…。…俺はまだ完全にルルーシュを許した訳では…」

「じゃあ問題無いな、おやすみ」

「いやいやいやいや!」

ばふ、と枕に倒れ込んだC.C.をスザクは慌てて止める。

「何なんだ、全く…。というか今更だぞ?」

「え…?」

「コイツが最初にゼロとして活動していた時期はずっと一緒に寝ていたが?」

C.C.の言葉にスザクは計り知れない衝撃を受ける。

「ま…毎日?」

「あぁ。お前が泊まり掛けで私とルルーシュのベッドを占領する日を除いてな」

「なんて羨ま……いや、何でさ!!」

スザクはルルーシュの肩をガクガク揺さ振った。

「だっ、だってベッドは一つしか無いし…っ、コイツは傍若無人で譲る気なんて皆無だったし…っ仕方なくっ」

「…まさか間違いは起きてないんだろうな…?」

「それは無い!!」

少々蒼冷めた顔で問い質すスザクにルルーシュは慌てて即答する。

C.C.はつまらなそうに欠伸を噛み殺した。

「…でも君は僕に抱かれたそのベッドでC.C.と寝ていたって事だろ?」

「そ、それは…」

ルルーシュは口籠もったが、すぐに反逆体勢に出る。

「ていうかお前達、さっきからうるさいぞ!いい加減にしろ!何ならお前等二人で寝たら良いだろう」

「そんな事出来るか!」

「それじゃあ男女が一緒だから意味が無いだろ。それにそんなのまっぴらだ…」

スザクとC.C.は火花を散らして睨み合う。

ルルーシュは溜め息を吐いた。

「…じゃあ分かった。お前達がベッドを使え。俺はそこの椅子で寝る」

「「それは駄目だ」」

タイミングもぴったり揃えて二人から放たれた言葉にルルーシュは口をあんぐりと開ける。

「私は今や坊やが居ないと安眠出来んのだ」

そう言ってC.C.はルルーシュにべったり絡み付く。

「ちょ…離せよC.C.。僕だって君達が二人で寝たら安眠出来ない」

「…スザクは一体どうしたいんだ。さっきからモラルに拘っているようだが、それが今必要な事か?」

「ていうかぶっちゃけ僕的にモラルとかどうでもいいんだけど」

えー。

ルルーシュは胸中で突っ込む。

「特に僕は男女の意識とか低いし。カレンの全裸を見ても動じないし」

「お前、何言ってんだ…」

思わず力ないツッコミが口から零れる。

「とにかく、ルルーシュは僕と寝るから!」

そう力強く宣言して、スザクはルルーシュを抱き取った。

「スザク…?何でだ…、お前は、俺を許していないんじゃないのか…?」

スザクの腕の中でルルーシュは困惑して問う。

「許してないし…まだ全ては肯定出来ないけど…でもやっぱり僕はルルーシュの事を…」

「スザク…」

「赤くなるな、バカモノ」

C.C.はルルーシュの頬を抓った。

「何だいC.C.、ヤキモチか?」

「馬鹿か、誰がヤキモチ等…。大体ヤキモチやきはお前だろう」

「うるさいな、ルルーシュが可愛いんだから仕方ないだろ!」

「ルルーシュのせいにするのか。これだから子供は」

売り言葉に買い言葉で他愛無い口喧嘩が発展する中、相手にするのに疲れたルルーシュは二人を放置し、その場で先に眠る事にした。










「ん………」

ルルーシュが浅い眠りから目醒めると、今がそう早くもない朝だという事を知る。

自分が寝てからどうなったのか、シングルベッドの上で、身体の右側にはC.C.がぴったりと張り付いている。

普段はあんなに露骨にC.C.が自分に執着を示す事は無い。

ただ単にスザクと喧嘩したかったのか、それとも本当にちょっとしたやきもちの様なものをやいたのか、どちらにしろ珍しく可愛げがある。


そして左側にはスザクが。

かつての恋人で、敵対しても擦れ違っても諦める事の出来ない程愛して止まない男である。

昨夜の言葉に少し目が潤んでしまったのは、事実だ。


あれだけ気を許して口喧嘩をしていたのだ、この二人の仲は決して悪くはないだろう。


ルルーシュは胸に何か温かいものを感じ、二人の間で知らぬ間に再び微睡み始めた。





それからスザクとC.C.がじゃんけんの末、結託して起き抜けで力の入らないルルーシュの身体にイタズラを仕掛けるまであと五分─。

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