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「美味しい!」
スザクは手捏ねハンバーグを口に運ぶなり顔を輝かせた。
「そうか」
…ふん、当然だろう。
俺の料理が美味いのはいつもの事だが、今日は特別だ。
素材から拘り抜き、スザクの好物ばかり揃えて腕に縒を掛けたからな。
満足してくれなくては困る。
…どうだ?
どうだ、スザク。
俺の事好きになったか…?
「お兄様」
「何だい、ナナリー」
可愛らしい声に思わず頬が緩む。
「今日は何だかスザクさんの好物ばかりですね」
ナナリーがにっこり微笑む。
「あっ、そうかなと思ったんだけど、やっぱりそうだったんだ」
俺が答えあぐねていると、スザクが得心したように呟く。
「……ありがとう、ルルーシュ」
「………っ!」
スザクのとろけそうな極上の笑みに、俺の心臓が痛い程高鳴った。
バカ…!
何て顔をするんだ、お前は…。
……そんな顔をしてくれるのなら…
「…お前の好物位、いくらでも作ってやる。…あ、勿論ナナリーのもな!」
「うふふ、ありがとうございます」
…少し展開が早いか!?
いや、そんな事は無い。
C.C.の言った通りになるのが少々癪ではあるが…。
恋は勢いだ!
パワーとガッツだ!!
…と会長も言っていた。
「す…スザク、今夜、その…、泊まっていかないか?」
言った!
言ったぞ、俺っ!!
「あ、ごめん、明日朝から軍の召集があって」
な……ッ!!!
そんな…っあっさりと…!
「そ……う……か……。…下まで送ろう」
落ち込んで等…いないさ……。
「じゃあ今日はありがとう」
「いつでも来いって言ってるだろ?」
別れ際の印象というものは特に大切だ。
人間の記憶には初頭効果と親近効果が働くからな。
ここで一言何かを言ってイメージアップを図っても悪くはないだろう。
また会いたいと思わせる言葉…。
好意を示す言葉…。
…512通り。
この中で俺達の状況、立場、関係上不自然でないこと、それからスザクの性格を考慮し、最も効果的な言葉に絞ると……。
256…
179…
……
…ええい!
全く見当も付かない!!
「…ルルーシュ?」
「すっ、スザク…!」
拙い…!
日本人が不快を感じない沈黙の継続時間を超えてしまったか…!?
「ルルーシュ、大丈夫?もしかして調子悪い?」
「い、いや、大丈夫だ…、…ッ!?」
スザクが突然俺の前髪を払って額に触れてきた。
余りの驚きに何も出来ない。
「…熱は無いみたいだね。よかった」
この……天然が…っ!!
スザクに触られてしまった…。
俺はベッドにどっさりと倒れ込む。
額に触れると、まだスザク指の感触が蘇る気がする。
「………っ」
再び活動的になり始めた心臓を誤魔化す為に、自分の肩をぎゅっと抱いて寝返りを打ち、その瞬間心臓が止まりそうになって跳ね起きた。
「お前…いつからそこに…」
「いつからとはご挨拶だな。それはそうとお前全然駄目じゃないか。瞬く間の陥落はどうした」
…言い返せないのが悔しい。
確かに今日の作戦は尽く失敗した気がする。
「お前の方がやられてばっかりだったな。これ以上お前があいつに夢中になっても仕様も無いというのに」
…一体どれだけ細かく観察していたんだ、この魔女は。
しかしやはり先に惚れた方が負けというのは真実なのだろうか…。
「…決めたぞ、C.C.。ラブハプニングを計画、実行する!」
「ラブハプニングぅ?」
C.C.が口を歪めて繰り返す。
「というか計画したらハプニングでも何でもないだろう」
「人の脳というものは、案外適当なものだからな。何らかの原因によって心拍数が上がった時、隣に居る人物がそれを引き起こしていると脳が錯誤する。そしてそのまま恋愛感情となる。共に非常体験をした男女がよく結ばれるのはこの為だ。という事はこのシチュエーションを人為的に作り上げてしまえば…」
「枢木、単純そうだものな」
…それは俺も思った……。