+忘却のマリア+

□第18話 見えない綻び
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「どこか行きたい所はありますか?」

「え……? どこかって……?」


朝の食堂でいつまでもボーッとしているソラヒメにエリザベスが尋ねる。

だが、エリザベスの質問の意図が理解出来ないソラヒメは首を傾げた。


「ゴールデンウィークですよ」

「あ……、そっか……」

「今年はどうします?」

「……う、み……」


行きたい所と言われて真っ先に脳裏に浮かんだのは、どこまでも青い海。

生命が生まれ、そして還っていくところ。

でも、その神秘の世界は自分とは縁のないモノ。

あの頃、映像でしか見た事のなかった場所に、遠い日の約束を思い出す。


「海、ですか?」

「ぁ……、ううん、いい……。どこにも行きたくない……」


それっきり、ソラヒメが口を開く事はなかった。





第18話 見えない綻び





「キレ〜!!」

「ほんと、気持ちいい〜!」


ゴールデンウイーク初日、ソラヒメと3年生の上位メンバーは揃って海の上にいた。

メイブリー家のクルーザーでメイブリー家がリゾート開発している南の島へと向かっているのだ。

ソラヒメは「どこにも行きたくない」と言ったが、そんな嘘に騙されるエリザベスではなかった。

きっと思い出した過去になにか関係あるのだろうと、海へ行くことにしたのだ。


「キレイですよ、ソラヒメ」


あのプールでの1件以来、すっかりソラヒメはふさぎ込んでいた。


「ソラヒメ」

「……へ? ……何ですか? シフォンさん」


作り笑いも上手く出来ていない。

そんなソラヒメの様子にシフォンも暗い表情をみせる。


「「キレイね」って、言ってるのよ!!」

「いふぁっ!? いふぁい!! いふぁいれふ〜!!」


そして、そんな2人に苛立ちを隠せないのがティシーだ。

彼女はボーッとしていたソラヒメの頬を左右に引っ張ると、怒鳴りつけた。


「キレイれふ〜!!」

「ティシー、そのくらいにしてください」


流石に可哀想になったシフォンが助け舟を出し、ようやくソラヒメは解放される。


「なんか、ティシーさんご機嫌ナナメなんですか〜?」

「そうみたいですわね〜。きっと女の子の日なんですよ」

「ああ、それで……、」

「違います!!」


赤くなった頬を撫でながらソラヒメがシフォンの答えに納得していると、間髪入れずにティシーに否定された。


(ソラヒメもソラヒメだけど、シフォンもシフォンよ!)


ソラヒメに『何か』あったのに気付いているのは、シフォンや、エリザベスだけではなかった。

ティシーもその1人だった。

お節介かもしれないが、ティシーは早く元の2人に戻って欲しかった。

と、言うよりも、パートナーなのだから隠し事などせずに互いに支えあっていけばいい。

ただそれだけなのに、何が難しいのか、いまひとつティシーには理解できなかった。


「ソラヒメ」

「エリーちゃん」


そして、何よりもティシーを苛立たせたのは、あの1件よりますます過保護になったエリザベスの存在だった。


「なに? どうかした?」

「いえ……」


何か言いた気なエリザベスだったが、シフォンの姿を目に止めると口ごもる。


「私達は中に戻ってますね」

「えっ? シフォン?」


そんなエリザベスの様子に気付いたシフォンはティシーと船内に戻って行く。


「ちょっ!? シフォン?」

「なんですか?」

「なにって……、いいんですか?」


今のソラヒメと、エリザベスを2人っきりにさせるなんて……。

ティシーの表情が曇る。


「いいんですよ。今のソラヒメに必要なのは私じゃありませんから……」

「シフォン……」


寂しそうなシフォンの横顔に、ティシーはそれ以上言葉が続かなかった。





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