+忘却のマリア+
□第1話 ウエストのキメラ
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「やっぱり今回もサテラの圧勝かな〜?」
2年生のカーニバルが行われている広場の方を眺めながら彼女ーウエノ=ソラヒメーはニコニコと楽しそうにチョコレートケーキを口へ運んだ。
第1話 ウエストのキメラ
「残念ながら、優勝はガネッサ=ローランドさんだそうですよ」
「エリーちゃん! サテラが敗けたの!?」
ソラヒメの向かいに腰掛けながら、3年生2位のエリザベス=メイブリーが告げると、思っていなかった結果にソラヒメは大きな瞳を見開く。
「女王の不敗もここまでって事よ」
「たいしたことなかったわね、『接触禁止の女王』も〜」
皮肉気に言いながら、3年生6位のアティア=シモンズ、同じく4位のアーネット=マックミルランも空いている席へ腰掛け、5位のクレオ=ブランドも続いた。
「アティアさん、アーネットさん、クレオさん。でも、サテラとガネッサだったら……」
「乱入者がいたそうだ」
サテライザーが敗けた事に納得がいかないソラヒメの言葉を遮り、クレオが言う。
「乱入って、そんなバカな事する人いるんですか?」
「いたのよ。そのバカが」
「ほんとバカな事したよね〜。あの編入生」
呆れた顔で答えるアティアにアーネットが続いた。
「1年生の編入者の乱入の所為らしいですけど、カーニバルは実戦を想定してどんな罠や妨害も認められていますから彼女の敗北は覆せません」
「『接触禁止の女王』の初黒星ってわけよ」
「そうですか」
エリザベス、アティアの説明に、ソラヒメは静かに頷いた。
「何? ソラヒメってあいつと仲良かったの?」
「いいえ」
意外にこの話題に食い付いてきたソラヒメにアーネットが尋ねると、ソラヒメはきっぱりと否定した。
その答えに4人は不思議な顔をする。
「だって、サテラは私のこと嫌いですもん。私はどっちかって言うと好きですけどね」
だから「仲良くない」とソラヒメは笑顔で言う。
「ま、生意気な下級生にはちょうどいい薬になったでしょ」
「確かに。サテラって協調性に欠けてますからね〜」
さして気にした様子もなく、いつもの様に笑顔をみせる。
「それよりも、どうしたんです? 1人で?」
1人でお茶をしていたソラヒメを不思議に思ったのであろうエリザベスが尋ねると、ソラヒメの表情が一変した。
「別に、好きで1人なわけじゃないよ……」
「あ、振られたんだ〜」
「アーネット」
面白そうにからかうアーネットをクレオが諌める。
「そうですよ。ど・う・せ、私は振られん坊ですよ〜」
テーブルにのの字を書き、今にも泣き出してしまいそうなソラヒメの姿に、アティア、クレオに、エリザベスまでもアーネットに非難の眼差しを向けた。
「ちょっ! ソラヒメ? 冗談じゃない」
慌てて取り繕うとするが、ソラヒメはテーブルに突っ伏してしまった。
「……」
「ソラヒメ! ゴメン!!」
エリザベスの無言の圧力にアーネットはさらに慌てた。
「あっ! ケーキ!! ケーキ買ってあげるから!!」
「ほんとですか!?」
その途端に、勢い良く顔を上げると「わ〜い!」と喜び出した。
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