+忘却のマリア+
□第3話 消せない傷痕
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「何もイングリッドさんにお願いしなくてもよかったんじゃないの〜?」
エリザベスの向かいに座ったソラヒメは溜息を付きながら尋ねた。
第3話 消せない傷痕
3年生の7位のイングリッド=バーンシュタインがサテライザーの制裁を行うと聞き付けたソラヒメはエリザベスの部屋を訪れていた。
「相変わらず耳が早いですね」
「エリーちゃんの事ならなんだってね!」
エリザベスに入れてもらったココアを手にしてニコニコと笑みを浮かべるソラヒメにエリザベスも穏やかに微笑む。
「彼女は15位のカンナヅキ=ミヤビに勝ったのですから、当然でしょう」
「でも〜、それならアティアさんか、クレオさんでもよかったんじゃないの〜?」
7位のイングリッドでは強すぎると言いたいのだと思っていたエリザベスは、なぜソラヒメが彼女よりも上位の2人の名を出すのかわからなかった。
ソレが顔に出ていたのだろう、ソラヒメは苦笑する。
「だって、イングリッドさんこの手の制裁だと手加減してくれそうにないから」
「手加減する必要もないでしょう?」
「ソレはそうだけど……、でも……」
歯切れの悪いソラヒメにエリザベスは首を傾げる。
「なんか、……イングリッドさんの心の傷を抉るだけじゃないかな〜? って思って……」
「ソラヒメ……」
「マリンさんのことは……、私にも責任あるし……」
「アレは!! あなたの所為ではありません!! むしろっ……!」
明らかに暗い表情をしたソラヒメにエリザベスは珍しく声を荒げた。
マリン=マックスウェル
イングリッドの親友で昨年の学年ランク7位の人物だ。
昨年の遠征カーニバルで突如現れたノブァに奮戦するも、パンドラとして再起不能に陥り、学園を去っていた。
彼女の事は、共に奮闘したソラヒメ、親友のイングリッド、他の上位メンバーの心に大きな影を落としている。
「……むしろ、あなたが間に合ったからあれだけですんだのでしょう?」
自分を責めるソラヒメにエリザベスは優しく言うが、ソラヒメは首を横に振る。
「私が、……もっと早く着いてれば、マリンさんは今もここにいてくれた……」
「ソラヒメ……」
今にも泣き出してしまいそうなソラヒメの姿にエリザベスの胸が痛んだ。
「……エリーちゃん」
かける言葉が見つからなかったエリザベスはキツくソラヒメを抱き締めた。
ソラヒメもエリザベスの背中に腕をまわし、しばし互いの温もりを感じる。
「ゴメンね、エリーちゃん」
「ソラヒメ……」
「もう大丈夫だから!」
ニコッといつものように笑って見せると、エリザベスから離れる。
「サテラのことも、イングリッドさんがいいんなら私は口出ししないから」
空元気なソラヒメにエリザベスは溜息が零れる。
「ソラヒメ……」
「それに、この件に関わっちゃったらシフォンさんに怒られちゃうし〜!」
「……」
シフォンの名にエリザベスは明らかに不機嫌な顔をした。
「エリーちゃん?」
そんなエリザベスの様子にソラヒメは首を傾げる。
「確かに、コレは私達3年生の問題ですから、あなたは関わらなくていいですよ」
シフォンの名が出てきた事に不満はあるが、ソラヒメに関わって欲しくないのはエリザベスも同じだった。
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