夏を抱きしめて

□二章
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騒ぎ声によって小さくなってしまったエンジン音がゆっくりと消えていった。
バス独特の開きドアが音を立てて開く。
「みんな忘れ物ないようにね」
「はーい!」
と返事をする一同だがよほど楽しみらしく適当な受け答えである。
和也は通路側の俺を跨ぎ颯爽と外へ駆け出していく。
「ふぅ、全く凄いはしゃぎようだね」
「まぁそれが良いところ…、でもあるんですかね」
「複雑だね。すまないけど忘れ物がないかだけ確認してくれないか?」
先生に言われ後ろから前の席まで歩き回った。
「これは…」
細い金属の輪。
ネックレスだろうか俺はとりあえずそれをポケットに入れた。
この勢いだと他にもたくさんありそうだと考えたが意外にも忘れ物はさっきのネックレス一つだけだった。
女子のだろうか。
そう考えながらバスを降りたときだった。
「すげぇ!」
「綺麗…」
そんな大歓声があちこちで飛び交う。
それもそのはず、目の前に広がっているのは雄大な海。
生物の源、原点でもある海。
夏の正午の厳しい光が水面に反射しまるで無数の宝石が輝いているようである。
「おい廉!これは楽しい合宿になりそうだな」
そう言いながら俺の腕を引っ張っていく。
「おいおいそんなに焦るなよ。海は逃げたりしないぞ」
「こんな景色を見てテンション上がらないやつなんていねえよ!お前水着は持ってきたんだろうなぁ?」
「お前が前日に全員にしつこくメールしただろ。嫌でも忘れないよ」
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