TS長編部屋

□これは素性
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何も映していない、瞳。
表情はただ、無。

「俺が分かるか…?」

問い掛けてみるが、反応が無い。
微動だにしない紫の肩に手を置き、真っ直ぐ瞳を見詰めるがその瞳に己の蒼が映ることは無い。

「レウ……」

名を呼び、その身体を蒼はぎゅうっと抱きしめる。
伝わる温もりから生きていることは分かる、分かるが……涙が止まらない。
人形に成り果てた彼の姿が堪らなく…辛い。

誰も抱きしめている青年を攻めなかった。
青年も他人を責めることはしなかった。
しかし、青年自身が青年を責め続け、追い込んでいる。

かつての紫の少年と同じ様に、蒼い青年は後悔の念に潰されそうになっていた。

抱きしめられている少年は何を思っているのか。
ただ、感情の無い顔で抱きしめられているだけだった。




***

「シアル、おはよう」

くるんくるんの金髪を跳ねさせながら少年、いや青年ライガは白い病室へ入る。
シアルと呼ばれた蒼い青年は、元気の無い笑みを零し、おはようと小さく返した。

「今日もレウを連れて来てくれたんだね…」

「あぁ……」

ライガの腕にくっついている紫の少年、レウの頭をシアルは撫でた。
しかし、その表情は変わることなく、瞳は何も映さない。

「レウ、おはよう」

返事は無い。
それでもシアルは気にしなかった。

「ライガ殿、毎日すまないな…」

「いや、俺に出来るのは…これだけだから…」

そういって近くの椅子を取り出し、レウをそこに座らせる。
すとんっと素直に座ったレウにシアルは思わず苦笑いを零す。
そして、近くの棚からお見舞いにと、ファレルやリュウが置いていったクッキーを取り出し、レウに持たせる。

「いや、ライガ殿は立派にレウを守ろうとしてくれた…今でも感謝しているさ。レウ、食べていいぞ」

シアルは悲しい目をしていたが、諦めをしている目でも無かった。
シアルの言葉と同時に、ゆっくりとレウの手が口元に移動する。
そして、クッキーを一口かじった。

たったそれだけ。
たったそれだけの動作なのに、レウは全て失っていない。

そんな核心がシアルにはあった。
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