TS長編部屋

□これは逃走
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「キャロルー?」

綺麗な茶髪に黒い猫耳が美しい女性は、沼と緑の街カルバイガルを歩いていた。
キョロキョロと辺りを見回し、何かを探しているようだ。
そんな彼女の元に一人の少年が歩いてくる。

「スズ、どっかしたの?」

金髪をくるんくるんと自由に跳ねさせている少年は女性、スズに向かい小首を傾げながら尋ねる。

「ライガ…キャロル見なかったかしら…?」

「見てないけど…どっかしたの?」

「補給に行ったきり帰って来なくて…」

ふぅ、と小さくため息をつくスズ。
ライガと呼ばれた少年はスズの話を聞くと少し眉をひそめた。

「もしかしたら、迷子になってるのかも…オレも探すよ」

その言葉にスズはぱぁっと顔を輝かせる。

「ありがとう!」




***


―――カチッ

漆黒の部屋に光が灯る。
部屋の真ん中には先程の漆黒と同化していた漆黒の青年が座っている。

「リュウ…何をしてるんだ」

リュウと呼ばれた漆黒の青年はゆっくりと声の主に顔を向ける。

「あ…ファレル…」

「休むなら休んどけ…明日は委員会に顔出さなきゃならないんだ…」

ファレルと呼ばれた真紅の青年は、懐から青い封筒を取り出した。
差出人はカバリア委員会。
内容はリュウが委員会へ赴くようにというもの。

「ファレルは留守番しとくの?」

俯き、問うリュウ。

「んな訳ないだろ!…俺も行く」

ふぅとため息を漏らし、リュウの頭を撫でる。
しかしリュウはぴくりとも動かない。
その様子は少しおかしい。

「…どうかしたのか?」

ピクンとリュウの肩が揺れる。
表情を伺おうと屈んでみるが更に深く俯かれ、伺うことが出来なかった。

「リュウ…?」

両手でリュウの顔を包み込み、上を向かせる。
そこには不安の表情がありありと現れていた。

「……ふぁ…れる…」

泣きそうに揺れる声。
柔らかく笑ってやるが不安の表情は消えない。

「ファレル……」

「なんだ?」

服の端を掴みながらリュウはファレルへ顔を近付ける。

「僕……」

「ファレル!!」

リュウが何かを言いかけた時、ノックも無しに思いきり扉が開かれ、ラクフィが現れる。
ラクフィは急いでいたのか、肩で息をしている。

「………もしかしなくても、私邪魔ちゃったかな?」

「あぁ、物凄くな」

リュウとファレルの距離はほぼ0。
ラクフィが入って来た衝撃で咄嗟にリュウを抱え込んでいるファレルは、さすがだと言える。

「ラクフィ、どうしたの?そんなに慌てて…」

ファレルの腕に埋もれているリュウがラクフィに声をかける。
彼の体力は正直異常だ。
そんな彼が息を切らすほど急いでここに来るほど慌てたとなるとただ事ではないものを感じる。

「リュウ…よかった…」

へたへたと座り込むラクフィに二人は頭上にクエスチョンマークを浮かべる。
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