シフォンケーキ
□雨の日
1ページ/1ページ
「雨だなー」
「雨だね〜」
雨の日
ザ―…ザ―…
しんしんと降り続く雨の中三人の青年がその雨をしのぐようにシャッターの閉まっている店の前で雨宿りをしていた
「あー!これじゃあ練習出来ねーじゃねーか!!」
「だな」
切りそろえられたワインレッドの髪をわしゃわしゃとタオルで拭き、文句を言っているのは氷帝学園三年の向日岳人。彼の意に同意しているのが同じく氷帝学園三年の宍戸亮だ。
彼らは部活の帰り途中。いつもの様に残って練習をする宍戸に向日が付き合い、時間が遅れてしまったようだ。ちなみにこの雨宿りをしている所は氷帝学園への通学路となっている。が、しかし先程も言った通り、彼らの帰りは遅かったしたがって必然的に人っ子一人として通らない
「完全に激ダサじゃん」
「…俺のセリフ」
頬を膨らませ、如何にも向日は機嫌が悪そうだ。また、隣にいる宍戸もこの雨と若干の濡れたジャージの居心地の悪さに苛立ちを隠しきれない
普段から口数は多い二人だが、この雨のせいで喋る気力を削がれているようだ
「鳳呼ぶか!!」
突然の岳人の言葉に宍戸は帽子をとり、ガシガシと頭をかきながら返した
「あー…だめだめ!アイツ今日ピアノだって言ってたから」
「…ちぇ、あいつなら飛んで来るかと思ったのに」
「……」←(事実で何も言えない人)
コホンッ
咳払いをし、気を取り直すように今度は宍戸が岳人に質問をした
「……忍足はどうしたんだよ」
「あー…だめだめ!アイツ今日バイオリンだって先帰った」
「同じようなもんじゃねーか!!」
「いやーでもよ?侑士怒ると大変だし…色々」
(何があったD1――――――――!!)
心の中で激しいツッコミを入れる宍戸。そんな宍戸に気が付いていないのか岳人はまだ降っている雨を空ごと睨みつける
そんな岳人の様子を見た宍戸も濡れないように空を見上げ『あ!』と声をあげた
「!、何だよ…ビックリした―…」
「あ…悪い、そう言えば前にもこんなことあったなーって思って」
「前?」
意味深な発言をした宍戸に向日は眉をひそめながら首を傾げる
「ほら、俺たちが初等部の頃」
向日は頭を出来るだけフル回転させ、記憶を辿る
「ん〜と、確かあの時はジローも一緒だったな」
「ジローも?」
第三者の名前を出され、益々わからないと言った様子
「あの時は三人で練習してて、丁度このくらいの時間だったな」
「あー!思い出した!!あの時か」
「あの時は三人で試合して…」
「がっくんボロ負けだったC−」
「そうそう!俺がボロ負け……って」
「ジロ――――!!」
「うるさE−」
「お、お前!何時からそこに」
「『あー!これじゃあ練習出来ねーじゃねーか!!』から」
「…最初っからいたってわけね」
「ま、そういうこと」
突然口を挟んだ参加者は三人目の同じく氷帝学園三年、芥川慈郎だ。
まだ振り続けているはずの雨に苛立っていたのが嘘の様に一気に賑やかになった。
三人は幼馴染。子供のころからの付き合いで、いつも一緒だった。でも、いつの頃からか三人で遊んだりすることは無くなった。
ある者はレギュラーの座を奪うために
ある者はパートナーの足手まといにならない為に
ある者は自分の居場所を求めて
「三人でこうして話すの…久しぶりだな」
宍戸の呟きに二人は頷いた
「宍戸には鳳がべったりだったしな」
ニヤリと意地悪く笑う向日に宍戸も怯まずかえす
「お前は忍足にべったりだったがな」
「んだと!!」
「二人とも暑苦C−」
「「お前は寝過ぎなんだよ!!」」
「はは…やっぱC−?」
いつからか自分たちの周りには仲間が増えていった。だからこその幼馴染。大切で唯一無二の存在達…
「そうだ!!」
突然ジローが何かを思いついたのか目を輝かせながら二人に提案した
「試合やろ!試合!!」
「はあ?試合?」
「そうだC−!」
「何でまた…」
心底面倒だという顔の二人だがジローは続ける
「あの時の続き!しよ!!」
「続きって…」
宍戸はあまり乗り気ではなさそう。それもそうだ雨の後のグラウンドの状況がどんなものか特訓をしていた彼が一番よくわかっている
しかし、向日は続きという言葉に若干ながらも反応する
実は三人の言っているあの時とはまだテニスを始めたばかりの頃に行なった非公式試合の時のことだ。三人とも一人一人と試合をし、全員と対戦した。結果は向日の惨敗だった。彼はやはりスタミナが続かず、前半はリードを保つが後半は相手のペースに乗せられてしまう。
試合=あの時のリベンジ!!向日の中では勝手な予測変換が完了され、ジローの案に乗って来た
「いいぜ!!やってやるよ!」
「は?!まじかよ…」
「がっくんカッコE−」
「宍戸もやろーぜ!練習と思えばいいだろ?!」
(練習よりキツイ気がする…)
未だに渋っている宍戸に向日とジロー言う
「ひょっとして…負けんの負けるのが怖いとか?」
ピクッ
「Aーマジマジ?!宍戸カッコ悪ー」
ピクピクッ
「上等だこらぁ!!やってやろうじゃねーか!!」
心の中で宍戸は自分はなんて子供なのかと罵(ののし)る、が買ってしまった喧嘩は仕方がない宍戸はそのまま学校へと足を向かわせる
ジローと向日もそれに続くように足を進めた
それぞれの口元には笑みを乗せて…
いつの間にやら雨はすっかり上がっていた。ドンヨリとした雨雲はその役を終え、今は端の方で次の天気の準備中。鮮やかな青が映えた空には三人の姿はどう映っているのか…
((…負けたー))
(ひゃー!嬉C−)
(そう言えばこの中で一番シングルス経験があんのって…)
((ジローじゃね?))