シフォンケーキ
□神の子と呼ばれて…
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この世に神は存在するのか…それが俺の今一番の疑問だ
神の子と呼ばれて…
そよ風の香る初秋、夏の蒸し蒸しとした暑さから解放され、穏やかな秋を感じる
今日は珍しく、部活が無いため放課後は一人教室でゆったりと特に何をするでもなくただ、窓の外を眺めていた
時折風が俺の髪を揺らす、秋の匂いがした。
ふと、視線を下へと下げると毎日のように手入れをしている花壇が目に入った
(…もうすぐ終わりか)
花壇に植えられていたのはヒマワリ。しかし、それはもう茶色に変色しており太陽と比喩されるその姿はもうなくなろうとしていた。
花弁はハラハラと風を煽るたびに落ちて行き、スッと背筋を伸ばしていた茎は前かがみになっている。添え木をしていたが、今ではもう役なしも同然だ
「寂しいモノだな…」
言葉にすると余計にそう思った
花はその季節を過ぎると枯れる。特に冬場は咲いているモノの方が少ないだろう
もうすぐリセットされる。そのカウントダウンの始まりを告げるようだ
この四季をありありと感じられるのは世界中を見てもこの『日本』という国だけだろう。少なくとも俺はそれしか知らないし、知ろうともしない
そう思った時、俺の友人の一人が脳裏に浮かんだ。知識に対する探究心が人一倍強く自身の観察したその夥(おびただ)しい量の情報をまとめ、俺達に伝えその勝利につなげる人物
『柳蓮二』
彼ならばどう思うだろうか?というか、思う前に四季を感じる国は此処だけではないと一蹴りされるかもしれない
そう考えると、俺は頬を緩めずには居られなかった
サア…
「あ、」
また一陣の風が吹いた。今度は結構強い。
北風なのかその空気の流れには些(いささ)か冷気を含んでいた
それは先程のヒマワリを余計に刺激し、最後の花弁をとうとう落としてしまった
その光景が妙にリアルで、いや、実際に起こっているからリアルなのは当たり前なのだが…
「ばいばい、」
終わった。そのヒマワリは終わった。終焉を迎えた
『神の子』それが俺の異名。
誰が付けたのかは知らない、勝手に俺の知らないところでつけられた俺のもう一つの名。
『神の子』俺は本当にそうなのか…?
あの美しく散ったヒマワリを助けることもましてや手を差し伸べる事も出来なかった、こんな俺が?…神の子?笑わせるなよ。
俺はそんな大層な存在じゃない
一人の『人間』だ
手を伸ばせば届く距離にいる人間さ
愚かで醜い人間さ
人間は自分より低く小さいモノが無いと生きてはいけないし自分より高く大きいモノがないと高見を望めず止まってしまう
どちらの存在も欠かせないものだ。
俺は大きく高いモノの方に就いただけただそれが高すぎた。神だなんて…ましてやその子ども…俺は人間から生まれた人間の子だ
けれどそれを口にはしないしたところでどうとなるわけではないしそれを聞いた周りの反応は大方の予想が着く
だから
俺は
俺の中に存在する人間の血を神の子という異な存在のまま使おう
「!、幸村まだ校内に残っていたのか…?」
突然声のした方を振り返ると珍しく動揺した彼の姿が
「君こそこんな時間に何をしてるんだい?、真田」
「俺は委員会の見回りの途中だ、先程蓮二にも会って言ったが、…もうすぐ下校時間だ。早急に帰れ、それにお前の場合は体の事もあるだろう…」
「ふふ、何処のおじさんかと思ったよ」
「!、なっ!…馬鹿なことを言ってないで、さっさと帰らんか!!」
「ふふ、わかったよ。心配してくれてありがとう」
そう俺がほほ笑むと、彼もため息を吐きながら納得したように頷いた
俺は机に掛けていた鞄を手に取り真田とは反対のドアへと歩み寄る
「じゃあね、また明日」
「…ああ、また」
それだけを言い残しておれは歩く、その足取りは驚くほど軽かった
そうだ。居たな…俺を『俺』としてみてくれる君たちが
なんだ、全然寂しくないや。
嫌いじゃない
醜くない
酷くない
君たちの前では俺は『人間』じゃないか
君の言った通り馬鹿なのは俺だな
馬鹿なことを言った
ヒマワリは終わってなんかいなかった
始まっていたじゃないか
小さな小さな命をこの世に産み落として、母としてこの地球の一部としてまた始まったじゃないか
見届けたよ君の最期、とても儚くとても悲しくとても…――――美しかった
見届けたよ君の最初、とても小さくとても嬉しくとても…――――美しかった
(この調子でいくと、柳に追いつけそうかな…?)