雪武の蘭

□私だけを見てほしい
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「好きなんだ。俺と付き合って。」

蘭丸さんにそう言われたのが、もう3ヵ月も前のことだなんて。

時間が経つのは本当に早い。

同居する内に、いつの間にか私は、蘭丸さんのことが好きになっていて。

彼から告白された時は、本当に嬉しかった。

私のことなんて、眼中にないと思っていたから…。

彼の周りには、美人だったり可愛かったり―――私が敵いそうにもない女性が星の数ほどいて。

彼の目に、私が入り込むことはないと諦めていた。

そんな彼と思いがけず両想いで、付き合うようになって――――最初は、本当に幸せだった。

だけど――――


「「「蘭丸くーん!!」」」

いつものように、周りの女子生徒から黄色い呼び声がかかる。

彼は、その声に毎回律儀に振りむいて、笑顔を振りまく。

王子様スマイルと呼ばれるそれで、周りの女子生徒を魅了する。

乃衣ちゃん曰く、元が女好きだから、女性からの声を無視することが出来ないらしい。

最初は、彼が私を好きになってくれた、ということだけで満足していた私。

だから、そんな彼の姿にも、我慢していた。

彼は、私には勿体ないぐらい素敵なのだから仕方がない――と。

だけど、人間というのは欲深いもので。

そんな彼の姿を見るたびに、段々苛まれていく自分がいた。

自分だけを見てほしい――――

欲深いとは分かっていながらも、私の心の中には、そんな思いが芽生え始めていた。


そんなある日。

学校で急に気分が悪くなった私は、保健室に向かった。

(貧血かしら。)

そう思いながら保健室のドアの前に立った時、中から聞き覚えのある声がした。

「蘭丸くん。最近なかなか遊んでくれないのねぇ?」

聞こえてきたのは、保健室の先生の声。

「んー。中々時間がなくてさ。ごめんね、先生。」

次に聞こえてきたのは、間違えるはずがない、彼の声だった。

「誰か特定の人でも出来ちゃったのかしら?」

声だけで、大人の色気が、女である私にも伝わってくる。

「内緒ー。」

「あら。でも、あなたが一人の女の子で満足できるとは思えないのだけど。」

「んー。まぁ確かに。」

(え?―――それって…)

彼の口から出た衝撃の一言に、私の胸がズキンっと痛んだ。

「でも―――」

彼が、また何かしゃべり始めたけど、私はもう聞いてられなくて。

その場から立ち去ろうと後ずさった時、運悪く、手をかけていた保健室のドアが、カタン―――と音を立てる。

「誰?」

逃げ遅れた私の目の前のドアが開き、現れたのは彼で。

「スナコ――ちゃん…?」

彼の顔を見た瞬間、涙が自然と溢れてきた。

「え、ちょっ…どうしたの?!」

突然泣き始めた私に驚いた彼は、その手を私の頬に伸ばす。

だけど、その手を避けるように、私は後ずさった。

「スナコちゃん…?」

私のその行動に驚いた顔をしている彼。

その後ろには、事の成行きを面白そうに見ている先生がいて。

居たたまれなくなった私は、その場から走って逃げた。

後ろから、彼の私を呼ぶ声が聞こえてはいたけど、結局、彼は私を追ってはこなかった―――。

理科準備室に逃げ込んだ私は、頭から暗幕を勢いよくかぶった。

「ふっ…ぅうっ…」

自然と嗚咽が零れてきて、最近こんなに泣いたことないんじゃないかっていうぐらい、涙が溢れてきた。

(好きだ、なんて言われて、私舞い上がっていたのかもしれない。彼の特別になれたって。)

(あんなの、あの人にとっては、なんてことない言葉だったんだわ。他の女の人にもきっと―――)

(なのに私、勝手に彼の特別だなんて…きっと、彼は私のことをうっとおしく思っていたに違いないわね。)

(当然よね。彼の周りには、私なんかより綺麗な女の人がいっぱいいるんだもの。私だけを見てほしいなんて…身の程知らずもいい所だわ。)

暗幕の中で泣きながら、そんなことを思っていると、ガラッと急にドアが開く音がした。

(誰…?)

段々と近づいてくる足音。

その足音が、私の前でピタッと止まった。

暗幕が急に捲られ、目の前に現れたのは――――
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