D’sバレンタイン
□第4章 知らないよ
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ボードを見ていた男はある人物を探していた。
あの赤毛のことだ。肉でも食べているのだろう。
奥に進み、肉のあるテーブルを見つけた。
案の定その人物はそこにいた。
男が赤毛に話しかけようとする前にイスに座っていて少年がこちらに気付いた。
「ふぁくりゃのわんたん!!」
口の中を一杯にしていた少年。
何を言っているのか分からなかった。
「口の中に物がある時に話してはいけませんよ、ティモシー。」
少年は男の言葉に従い、大人しく口の中の物を片づけた。
そしてもう一度。
「ほくろのあんちゃん!!」
さっきは口籠って聞こえなかったらしいが、今度ははっきりと聞こえたらしい。
見えない何かに笑いかけていた赤毛がこちらに向かってきた。
「あー、何処行ってたんだ?」
ラフェスがリンクに尋ねた。
「何処って…。いつもの物を作りに行っていたに決まっているでしょう。」
分かりきったことを聞いたのはきっと、この質問から逃れたかったからだろう。
「ところで、珍しいこともあるものです。どういう風の吹きまわしですか?」
赤毛は誤魔化そうとしたが、あきらめた。隠すよりも言ったほうが楽だと思ったのだろう。
流石は、潔い。
「毎年作って送ってよこしてくれてただろう。それに…。ほら、言ってただろう?」
何だ。覚えていたのか。
聞こえない振りをしていたので、意外だった。
何年前のことだろう。最後に会った時だろうか。
ふとこんなことを言ったことがある。
『料理って、作るのにかなり時間がかかりますけど、食べてるほうはそんなありがたみを考える前に食べ終わりますよね。
特にあなた達2人は、そう言うことを…悉く無視しています。』
ああ。それはまだ彼がいた頃でしたか。
自分が必死に作った料理をあの二人は恐ろしいぐらいの速度で食べ終わってしまった。
あの時はまだ私も子供だった。
だから余計だったのだろう。
「ああ、あのことですか。でどうでした?作る側になってみて。」
「そうだなあ…。やっぱ食べる側の方があってるよ。面倒だしなぁ、作るのは。」
けらけら笑いながら赤毛は答えた。
「結局それですか。」
男は苦笑した。
でもそれが、赤毛にはよく似合っていた。
久しぶりに話したが、何も変わっていない。
彼がいないこと以外は…。
「そうだ。そこで待ってろ、リンク。」
リンクは驚いた。
雰囲気はかなり違うはずなのに、確かに感じた。
その声の響きの中に。
ああ。まだ生き続けているんだ。
なんて人何だろう…。
フォードは。