D’sバレンタイン

□第4章 知らないよ
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厨房へと消えたラフェスは程無くして、帰ってきた。

何か持っているようだった。

あれは何だろう…。

深く考えなくても分かった。




『なるほど。あれが目的だったのか。』




抜かりないというか何というか。


赤毛はあの手に持つ物のために、普段なら死んでもやらないであろう、料理などしたのだ。




「それは?」




一応聞いてみることにした。

答えは見えていたのだが。




すると目の前の少女は予想していなかった動きを見せた。






赤系の包装紙に包まれた物を渡した。






『はて?これは誰に渡そうとしてるのだろうか。』



「何やってるんだよ。」


「えっ…。どうしろと言うんですか?私に。」


「どうしろって、そんなの受け取ればいいだけに決まってるだろう。」



赤毛はニヤリと笑って続けた。



「そんなにひどい奴に見える?こう見えても感謝してるんだよ、お前に。リンク。」


「ああ。ありがとう。」




本当に驚きだ彼にならともかく、私にくれるなんて…。


料理を仕込んだ張本人に対する感謝を忘れて
はいなかったらしい。




「ですが、結構今更ですね…。」




思わず声に出してしまった。



「何だその言い方は。ありがたく貰っとけばいいんだよ。」



それはとてもいい匂いがしていた。

ぼうっとしていた男だったが、思い出した。

これを渡さなければ。



「これは頼まれていた物です。自分で作ったならこれは必要なかったのではないですか?」



赤毛は少し困ったように笑ったが、気を取り直すようにすぐ満面の笑みになり言った。



「あいつは普通のチョコのフォンダンショコラが好きだったけど、いつも頼んでたのは白いフォンダンショコラだろ。な?
白いのが好きだったんだよ。あげるってのは言い訳で、ただ食べたかっただけだ。」





まったくいつもこうだ。




人の心配事など見向きもしないくせに、すぐに解決してしまう。



「一応言っとくけど、お前のは両方入ってるよ。茶色も白も。マーブルだよ。それにちゃあんと3人分ある。」



楽しそうに笑っている。



「一応考えてるんですね。」


「まーね。」



ラフェスはリンクからそれを受け取った。




「じゃあ行ってくるよ。」




「何言ってるんだよ。もうそろそろビンゴ大会始まるのに。」


食べるのに飽きたらしいティモシーが聞いてきた。





「ちょっと、大切な用事だ。」





普段あまり見せない顔。



そこには知らない人がいた。

いったい誰が本当なのだろうか。

でもその人も赤毛であるのは事実だ。

そんな気がする。




ラフェスのそんな顔を始めて見たティモシーは、きょとんとした顔をしていた。


軽く手を振って出口へと進もうとする赤毛。





「流石に地下は寒いでしょう。これを着て行
ってはどうです?」




自分の着ていたコートを渡そうとしながらリンクが言った。



「ありがとう。でもこのままがいいんだ。」



それだけ言うと、さっさと出て行ってしまった。




「あいつどうしちゃったんだ?」




不思議そうにしていた少年は、隣にいた男に聞く。












「きっと、誰も知らないよ。」












男はぽつりとつぶやいた。
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