PreSENt

□真実と嘘
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『貴女の事が、嫌いなの』と彼女は言った。

それは丁度、彼女が何もかも上手くいかなくて。彼女に利用価値が無くなった。
誰もが彼女から離れていく。彼女の周りには、私と彼女の彼氏しか残っていない。そんな時だった。

『貴女の事が嫌い』だと彼女はヒステリックに泣いて叫んだ。

子どもが駄々をこねて地団太を踏むみたいに。
イライラして、当たるものが何も無いから、私に当たった。
ただ、それだけの事。


私と彼女の関係がこじれる、少し前だっただろうか。

思えばその顔が私が見た最後の嬉しそうな笑顔だった。
新しい彼氏が出来たと、彼女は笑った。
私こそが世界一愛されているのだと信じて疑わない、花のような笑い顔。


その彼氏にとって、自分は一番だと思っている。可愛くて愛らしい、彼女。

……本当に。


「……馬鹿な女」

「蓮菜――君の事が好きなんだ」


男は、私に熱っぽくささやき掛けた。
生温かい息が私の耳にかかり、体の奥を男の囁きよりも熱く疼かせる。


「……んっ」

「好きだ、蓮菜っ……。愛してるっ……」


分かりやすい愛の形。愛してる、愛してると狂ったように呟き続ける、彼女の『彼氏』さん。
一度大きな声で叫びながら「蓮菜」と私の名を呼んだきり、ぴくりとも動かなくなった。
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