Paradise Left
□# 002
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「はい、ユディト」
テレサが彼女に、赤い卵を差し出している。
レオナルドを見送って帰ってくると、もう人は引き払って姉妹たちしかいなくなっていた。
門も閉められたし当り前かと、どこか虚ろな頭で思いなおしたユディトに、テレサが近付いてきたのだ。
ユディトは奇麗な紅に彩られた卵を見つめる。
「ああ、テレサありがとう……」
「別れたのか」
気力を失った手で卵を受け取ったユディトに、テレサは声を掛けた。彼女が言っているのはレオナルドのことだ。
「別れは辛いもんだけど、アンタはよく耐えたよ」
テレサは長い手で、ユディトの頭を軽くぽんぽんと叩く。
けれど、ユディトが気にしているのは、彼女が言うようなことではなかった。
確かに別れは辛いが、レオナルドの様子がおかしかったのが何より、ユディトの心に引っ掛かっていた。
誘いを断ったからショックを受けたのだろうかと思ったが、ユディトの心のしこりは取れない。
まあ、彼に別れを告げたのだからそう思い悩むことはないかと、無理やり気を取り直して、ユディトも懐から赤い卵を取り出した。
「はい、テレサにもありがとう」
「サンキュ」
イースターでは、赤い卵を友人にプレゼントするのも一環だ。
表向きのお祭りが終わったあとでは、シスターたちの間で赤い卵を交換する。
元はマグダラのマリアの行ったものを起源としており、復活を象徴する卵、そしてキリストの血を象徴する赤の組み合わせは、まさに復活祭そのものを表しているのだ。
「さ、これから本当のイースターだよ。テキパキ動きな」
「わかってる!」
から元気でテンションを上げ、ユディトも復活祭の準備に取り掛かった。