Paradise Left
□# 003
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ユディトは蝿の羽音が聞こえた気がして目を覚ました。
寝呆け眼のまま室内に目を凝らすと、蝿が一匹飛び回っている。
ユディトは窓を開け、そこらにあった本を使って窓辺に追い込むと、蝿は上手に外へ逃げた。
ふぅ、と一息。
「何やってんだ?」
「きゃああ!」
背後からの声に慌てて身を引きながら振り向いたユディトは、したたかに机に腰をぶつける。だがそんな鈍い痛みに構ってはいられなかった。
骸骨の面を被った大男が、ユディトの部屋の入口に立塞がっていたからだ。
「……何やってんだよ」
何故か呆れ声で近寄ろうとする大男に、ユディトは恐怖を感じて後退しようとするが背後の机が邪魔をする。
手がユディトに伸びてくる。
殺される……!
とユディトがぎゅっと目を閉じたところで、「あ」と大男は間抜けた声を上げた。
「悪い、ノックすりゃ良かったな。そんじゃ俺、先行ってるわ」
そう言い残してあっさりと部屋を出て行った。
不審人物の奇怪な行動に眉を顰めたユディトだったが、ふと昨夜の回想を始めて――ようやくユディトは思い出した。
昨日のことは、夢や幻なんかじゃなかった。
ばたばたと慌ててユディトが部屋から出ると、殺風景な修道棟の廊下を彼が歩いていた。
ユディトはその背に向かって叫ぶ。
「ごめんなさい、ルード。着替えたら、すぐに行くから」
むしろ何のこっちゃ分らないルードは、そんなころころと変わるユディトの態度に首を傾げながら、部屋に再び飛び込んでいった彼女を見送った。