Paradise Left
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一しずくの水がこめかみから頬を伝い、顔の輪郭をなぞるようにして顎の先に来ると、行き場を無くしてゆっくりと落ちていく。
それは足の甲に当たって弾け、シャワーの激流に合流すると、行方を見失った。
きっと人もいつしかこんな風に、此岸から乖離して、聖霊の中に還ってゆくのだろう。
私は目を閉じた。
覚えている、誓いを立てたあの日のことを。
うっすらと湿った髪越しに、水に濡れた大きな手が私に触れていた。
滲んだ水滴が今みたいに、私の頬に一筋の軌跡を描いて、石畳の床に落ちていった。
天板の窓からは強烈な斜陽の日差しが差し込んで天井に当たり、あの日の聖堂を濃淡鮮やかに、皓皓と映していた。
――それが私の洗礼だった。
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