創作の箱

□『嫉妬はいけません』
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ホワイトデー企画in.1012
「嫉妬はいけません」



 タルマは心底困っていた。
 目前でにこにこと笑っている男にだ。

「あの、シュレン? これ何かなぁ」
「え? ああ、クロノスの女性たちからチョコをたくさん貰ったので、バレンタインデーのお返しです」

 そう答える銀髪の青年――シュミアは横にそびえ立つチョコの城を指差した。
 タルマは顔を真っ青にさせて、その果てを眺める。
 彼女の身長三倍ぐらいはあるだろうか。

「帝都ハルジラスの城をチョコで作ってもらったんです。どうぞ、クロノスの人たちと食べてください」
「あ、あありがとう」

 声が震えるのはきっと、嬉しさのせいだろう。
 タルマは何とか作った笑顔をシュレンに向ける。
 彼はタルマの顔を見て心底嬉しそうに笑っていた。

「あー、邪魔ですね。これ」

 その一声と共に颯爽と現れたのはミカドだった。
 そして、ミカドはそのチョコの城を本を横水平に叩きつけた。
 チョコはそこそこ硬い筈だったが、それは呆気なく、スパンと音をたてて切れた。
 ズズズズと音をたてて、チョコの城は崩壊していく。

「み、ミカド……」
「おや、二人ともいたんですねぇ」

 悪気なく答えるミカドに対し、背中に冷や汗が伝う。
 チョコ山の残骸を見たシュレンが含み笑む。

「それにしても、邪魔ですよ。これ。通行できないじゃないですか。もう、いっそ破壊しますか」
「ミカド! これ、シュレンがみんなに……!」
「ああ、そうだ。はい、タルマ。確か、チョコレートよりもクッキーが好きでしたよね。どうぞ」
「あ、ありがと……」

 ひょいっと手渡されたクッキーの袋を受け取る。
 可愛らしくラッピングされた袋にタルマの頬が緩むが――

「あ、美味しそうですね」

 突然、横から出て来た手によって、ラッピングの袋が解かれた。
 そして、中から全てのクッキーが抜き取られる。

「あっ」

 その手とクッキーの行方はシュレンに向かう。
 彼は一口でそれを食べると、ミカドに向き直る。

「これ、甘すぎます。もっと、バニラエッセンスを聞かせた方がいいです。じゃりじゃりしすぎます」
「……シュレン」

 ゆらりと黒い影を残すミカドがシュレンに向かうと、彼の襟首をつかみあげた。

「おや、どうしました? 本当の事を指摘されて腹が立ちましたか?」
「チョコレートの山を馬鹿みたいに兵士に作らせたアホもいるわけだがな」
「おや、馬鹿らしい。あなただって、駅前のクッキー屋さんのを買って、ラッピングしなおしただけじゃないですか。死ね」
「ああ!? もういっぺん言ってみろ!」

 喧嘩を始めた二人をげんなりとした目で見ていたタルマだったが、小さくため息をつく。

「バカみたい……」








終  
 

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