Office romance
□delicious night
1ページ/1ページ
《誕生日》――…1年で1番の大切な日、特別な日。
この世界に降り立った最初の日。
今まではそれほど重要な日だと思ってませんでした。ましてや他人の誕生日を祝うなんて考えもしませんでした。
「…私らしくない…」
そう思いながらも心は何処か浮かれていて――…
浮かれるなんてらしくないですが、これも貴女だから感じるのでしょう。
「…とは言え、あまり時間もありませんし…」
「…ペッキー、どうした?溜め息なんかついて…」
ふと我に返ると大森亭の主人であり、幼なじみでもある大森正晴…マサちゃんが心配そうにこちらを見つめ、手元にある雑誌に視線を移すと懐疑そうな表情で――…
「…これ、どうするんだ?」
「…どうするって、それは…」
彼女との関係は秘密で、親友と言えどそれを公にするのは考えもので――…
とりあえず彼女の名前は伏せ、マサちゃんに事の次第を説明する。
「…あのペッキーが?!…ふーん」
「…な、何です?」
「…いいや、変われば変わるもんだなと思ってな」
マサちゃんの言葉に面食らう。
それはそうだ。他人に興味を、恋をするなんて思いもしなかったのだから。
「…良し!ぺッキーの為にとっておきの場所を用意してやる!…彼女と仲良くな」
そう言うマサちゃんは何かを悟った様子だったが、敢えて追及せずにいてくれて――…
頭を下げるとマサちゃんは驚いて――…
「…礼なんて良い。《彼女》の為、だからな」
「…マサちゃん」
「…さて、これから忙しくなりそうだ」
(…志乃…)
「…喜んでくれると良いのですが…」
―――――――――
木曜日。残業もなく帰宅しようとしていると後ろから声を掛けられ、振り向くと優しい表情を湛えた涼真さんの姿。
「…りょ…じゃなかった…か、課長」
「…今は誰も居ませんのでいつも通りで構いません。…仕事は終わりましたか?」
「…はい。涼真さんは今日は残業ないんですよね?」
「…ええ。ですが行く所がありまして…」
「…行く所?」
涼真さんが何処かへ行くなんて珍しくて、聞き返すと白い封筒を渡されて――…
そこには丁寧な字で《志乃へ》と書かれていて――…
「…そこで待ってますので絶対に来て下さい。…準備がありますのでこれで…」
引き止める間もなく、涼真さんは早々に部署をあとにする。
残された私は手渡された封筒を開き、中を確認する。
中には、地図の書かれた封書と、誕生日おめでとうの文字。
今日は9月1日。私の誕生日だ。
「…準備って…」
そこでハタと気付く。
私の為に動いてくれているのだと、祝ってくれるのだと…。
らしくないと思いながらも、嬉しいと思う自分が居て――…
「…ふふ、楽しみ」
涼真さんのサプライズ――…
どういう表情(かお)で準備しているかとか想像するだけで、頬が緩んで――…
どんなプレゼントを用意してるんだろ…。
「…志乃ちゃん、楽しそうだね」
「…桜澤先輩、お帰りなさい。…そんなに楽しそうな顔してました?」
「…うん、こっちまで楽しくなるぐらい。…それで何考えていたの?」
「…秘密です。それじゃあお先に失礼します」
鞄を手にし、地図に書かれた場所へと急ぐ。
指定された場所はここからさほど遠くなく、繁華街から外れた位置に面していて、何故ここを指定したのか疑問に思いながらも、その場所を探す。
「…何処だろ…」
「…どうした?困ってるようじゃねえか」
困り果ててると、そこに大森亭のマスターが声を掛けてきて、地図を見せるとにんまりと微笑んで――…
「…そうか。やっぱりペッキーの相手は…」
「…え?」
「…何でもない。それより地図に書かれた場所に行くんだろ?知ってるから案内するぜ」
「…良いんですか?お店は…」
「…店の事なら心配いらねえよ。それより、ここに行くんだろ?…行くぞ」
マスターに先導され、繁華街を歩き、路地に入ると高層ビルの多く建つ道に出て、マスターはその中の一軒に入ると、エレベーターに入り、ある階を押す。
少しして、その階に到着すると、そこには雑誌などでも紹介されている有名なレストランがあって、扉には《本日貸切》の札が掛けられている。
「…本日貸切?でも確かに…」
「…場所は間違いなくここだ。入ってみな」
マスターに促され、扉を開ける。
そこに居たのは――…
「…いらっしゃいませ」
next→