Office romance
□delicious night
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「…いらっしゃいませ」
「…りょ、涼真さん?!」
普段と違う格好に驚く。何故ならそこに居るのはスーツ姿ではなく、コック姿の涼真さん。
テーブルには豪華な料理と、中央にはケーキが並べられている。
「…これ全部涼真さんが…」
「…ええ。全ては貴女を喜ばす為に…。色々と頑張ってみました。衣装はこちらのお店のをお借りして、貸切にしてもらい…。持つべきものは友人ですね」
「…?」
「…失礼。…志乃、こちらに」
振り返るとマスターの姿はなくて、言われるまま席につくと、正面に涼真さんも座る。
空いたグラスにワインが注がれ、自らのグラスに注いだ後、柔らかい表情で――…
「…誕生日おめでとう」
その声と共に、カチンとグラスの重なる音が響き、口の中へワインを運ぶと芳醇な味が広がり――…
「…ワインは貴女の生まれた年のものを、料理は貴女が食べたいと言ってたものを作ってみました。口に合うと良いのですが…」
「…食べても良いですか?」
「…もちろん。何なら食べさせてあげましょうか?」
「…い、いいです。自分で食べますから」
ナイフとフォークで器用に切り分け、口に入れると甘さと辛さが絶妙に絡み合って美味しくて、夢中になって食べていると、涼真さんは――…
「…良かった、口に合って。ケーキも如何ですか?」
「…はい、是非」
そう言うとケーキを食べやすい大きさに切ってくれて、そのケーキをフォークで更に切り、口にすると、クリームと果物の甘味が全身に広がり、幸せな気持ちが心を満たしていく――…
「…幸せそうですね」
「…はい。だって本当に美味しいですから」
素直な感想を言うと涼真さんは照れた様子で――…
それから視線がある一点に止まると手を伸ばして――…
「…クリーム、付いてますよ」
そう言って口の端についたクリームを掬うとそのまま自身の口へと運ぶ。
「…あ…」
illustration:すみれ
その仕草が何処か色っぽくて、思わず声を上げると不思議そうな表情で――…
「…どうしたんです?」
「…い、いえ…」
こんな場面を見るのは初めてじゃないのに、鼓動が高く跳ねて――…
私の動揺に気付いたのか、涼真さんは意地悪な表情を浮かべて――…
「…ひょっとして何か期待しました?」
「…!」
「…その顔は図星ですね。貴女は本当に素直で、真っ直ぐで…。そんな貴女に私は心の底から惹かれている」
「…涼真さん」
「…他の誰かなら祝おうなんて思わなかった。心から愛する貴女だから祝いたいと、一緒に居たいと思った。貴女が初めてです。私にここまでさせたのは…」
顔を上げると、真剣な瞳を湛えた涼真さんの顔があって、その顔がゆっくりと近付いて――…
口唇が合わさると仄かにクリームの香りがして、その香りと口付けに少しずつ酔いが回り、身体が思うように動かなくなって――…
「…もう酔いが回ったんですか?早いですね」
「…ち、違います」
ムキになって否定するも、やっぱり身体は動かなくて、それを見て涼真さんはこちらに近付くと軽々と持ち上げて――…
「…ここの最上階に部屋を取ってあります。今晩はもう休みましょうか」
「…部屋って…」
戸惑う私を誘うように涼真さんは耳許で囁き――…
「…今夜は寝かしませんよ」
「…ッ////」
「…愛しています」
この夜どうなったかは――…
月だけが知っている――…
「…志乃、愛しています。ずっと…永遠に…」
――終わり――