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□世界で一番君が好き
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君と出逢うまで《誕生日》を好きになれなかった――…





誕生日には苦い思い出しかなくて、毎年その日が訪れる度、心は寂しさで埋め尽くされて…。大人になってからはそんな事を思う事はなくなったけれど…。あの頃の僕は愛情に飢えていたのだと思う。
今はあの頃の感情から解放されたけど、それでもふとした拍子で考えてしまう。





それはきっと、あの頃に得る事のなかった幸福を手にしたから…なのかもしれない。
僕の1番の理解者であり、大切な存在(ひと)であり、《特別》な――…
彼女と出逢わなければ、好きにならなければ僕は未だ過去に囚われたままだったと思う。





「…ありがとう」





感謝の言葉では足りない程の想いを君はくれた。
君が生まれてこなけば、この想いを実感する事などきっとなかった。
だから、君の生まれた日をお祝いしたい。





「…桜澤、お疲れ…って、何にやにやしてんだ?」





考えてた事が顔に出ていたのか、創に窺うように見つめられ、表情を戻すとやれやれと言った様子で――…





「…変な顔してると色々と怪しまれるから気をつけろよ。…お前の事だ、どうせあいつの事でも考えてたのか?」





創は僕と彼女の関係を知っている唯一の人物で、知られてしまったのは偶然が重なっての事で、僕が言う前に彼は黙ってくれる事を了承してくれ、今では良き同期、友人として色々と話を聞いてくれる心強い相手になった。





「…まあね。彼女の誕生日がもうすぐだから」





「…ふーん…まあ、俺には関係ねえけど」





「…創には聞いてない。これは僕と彼女の事だから」





「…そうですか。それはすまなかったな」





踵を返し、立ち去ろうとするが、振り返るとこちらをじっと見つめて――…





「…あいつの事、大切にしろよ」





「…創に言われなくても分かってる。もとよりそのつもりだ」





「…そうかよ。…じゃあな、お疲れ」





再び静寂が辺りに満ちて、窓の外を見ると白銀に輝く月が地上を照らす姿があって――…





「…すみれ」





今年は君にとって忘れられない日にする。
だから楽しみにしてて。





「…喜んでくれると良いけど…」
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