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□Craspedia 第3章 -深まる絆-
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 スクリーンチャット
 アヤシイ会話



 「やった、上がりだ!」


 嬉しそうに2枚のカードを置いたスタンの横で、私はジョーカー片手に項垂れるだけだった。


 「アヤナ、ホントにババ抜き弱いわね〜。3連敗よ、3連敗」


 ある意味引きが強いんじゃない?と、トランプを集めるルーティに言い返す言葉がない。私の手からはらりと落ちたジョーカーも集め、手際良くきっていくその姿はカジノのディーラーを思い出させ、落ち込みつつもルーティはディーラーも客も両方似合うと思ってしまう。


 「何でそんなに弱いんだお前は」


 「私も知りたい…」


 あのリオンが突っ込みを入れるほど、私はババ抜きが異常に弱い。反射神経がものを言うスピードは自信があるし、神経衰弱もそこそこ良い線をいっていると思う。他のゲームも1位にはなれなくても2位や3位ぐらいにはなれるのに、どういうわけかババ抜きだけはジョーカーが引き寄せられるように私の手元に来て離れようとしない。過去に友人たちとトランプで遊んでいる時に買い出しに行く係をババ抜きで決めて、まんまと大雨の中外に出るはめになった経験があるので、この先似たようなことがあるならば何が何でもババ抜きで決めるのだけは避けたい。今は任務中だし、純粋に息抜きとして遊んでいるのだからそういうことにはならないとは思うけれど。


 「皆さん、お食事の準備ができましたよ」


 「ありがとうございます!今行きます!」


 任務に備えてしっかり栄養をつけて休めるようにと、バルックが手配してくれた料理上手な船員に呼ばれ、とうにお腹が空いていたらしいスタンが真っ先に席を立つ。それに皆も続き、内心「助かった」と小さく安堵して部屋を出た。
 船旅を休息に宛て、こうしてトランプで遊べるのも今日までだ。明日の朝にはノイシュタットに到着し、オベロン社の幹部であるイレーヌのところに向かって再びグレバムの行方を追わなければならない。
 トランプゲームのルールの話で盛り上がるルーティ達に目を細めながらマリーに改めて感謝し、ミネストローネに口を付けた。











 「何だかひっさびさだなぁ、この空気!」


 嬉しそうに胸いっぱいにフィッツガルドの空気を吸い込んだスタンは嬉しそうだ。やや遅れて街に足を踏み入れたフィリアも柔らかい日差しに「セインガルドより暖かいですわ」と笑顔を見せた。


 「あれ?ノイシュタットってこんな街だったかな?すごく変わってる気がするけど」


 「ちょっとスタン。あんた、フィッツガルドの生まれなのにここに来ないの?ずっとあのド田舎にこもってるわけ?」


 「あぁ。ここには数える程しか来たことがないんだ。最後に来たのはいつだったかなぁ」


 「期待を裏切らない典型的なド田舎者なのね、あんたは…」


 「ありがとう」


 「褒めてないわよ…」とカルビオラの宿屋の時と同じく力なく突っ込みを入れたルーティだったが、街並みを見渡せるメインストリートに来たところでその顔が曇り、私も言葉を失った。


 「これは…」


 船を下りた時に海側に立つ木々の隙間から見えた建物の違いに何となく気付いてはいたが、ここまで貧富の差がハッキリと分かれていたとは。
 右を見れば富裕層の者達が優雅に歩き、左を見れば貧相な服装をした子ども達が指を咥えて彼らを羨ましそうに見つめている。通りの高低差が身分を表しているようで、同じ街とは俄かに信じがたい光景だ。


 「ノイシュタットはオベロン社の資本が入り、ここ数年で急発展した街だ」


 「そうなんだ…」


 何回か訪れているリオン曰く、前者はほぼセインガルド人、後者は皆フィッツガルド人なのだそうだ。前者の中には街の発展に協力せず、ただ移住してきただけの貴族もいるようで、主に彼らを火種とするいざこざも度々起こるらしい。
 再び、神に祈るだけでは何も変わらない新たな現実を目の当たりにしたフィリアが俯き、耐えるように両手を組む。目を背けているわけではないようだが、歳のわりに痩せている子どもや、覇気のない人々を見るのには少々辛いものがあるようだ。


 『残念じゃが、発展途上の状態では良くあることなのじゃよ。こればかりは、どうしようもできんのう…』


 「そ、そうなのか…?」


 『時間は掛かるけれど、いつか皆が豊かになる日が来るわ』


 私たちの間に流れる空気にクレメンテとアトワイトがフォローを入れるが、近くにある噴水の水音が何だか虚しかった。


 「さっ、早くイレーヌって人の屋敷に行きましょ!」


 「…そうだね」


 ルーティが頑張って明るく振舞っているように感じたが、私も気持ちを切り替えてイレーヌの屋敷を知るリオンに続いた。




 …だが、肝心のイレーヌは不在だった。私たちが来るのを待っていたようなのだが、どうやら急用が出来てしまったらしい。
 リオンは彼女の顔を知っているので探しに行っても良かったのだが、入れ違いにでもなったらかえって時間が掛かるということで、私たちがイレーヌを待つことになった。
 …が、皆が出された紅茶を飲み終えてもイレーヌは戻って来ない。


 「イレーヌって人、遅いわね。待ちくたびれちゃったわよ」


 「なぁ、それならアイスキャンディー屋に行ってみないか?」


 話が尽きた辺りから妙にそわそわしていたスタンが、目を輝かせながら切り出した。


 「アイスキャンディー…」


 懐かしい響きだ。父の田舎に行った時に、良く近所の商店で買っていたっけ。バニラやソーダの棒アイスも好きだったけれど、一番のお気に入りはパイン味だったのを思い出した。


 「色んな味があって、ノイシュタットの名物らしいんだ。幼なじみからその話を聞いて、俺もいつか食べてみたいって思ってたんだよな」


 「どれにするか迷いそうだな」


 ルーティとマリーに至っては既に行く気満々だし、フィリアは食べたことがないようで興味津々だ。私も久々に食べたくなったし、リオンに反対されるんじゃないかと思いつつも「行ってみようか」と言ってみると、皆が…特にスタンが嬉しそうに頷いた。その反応を味方につけて送った了承を求める視線に、リオンが溜息混じりに答える。


 「行っても構わんが、イレーヌを探すことも忘れるな。僕はここで待つ」


 「了解」


 ここまですんなりとOKが出るとは思わなかったけれど、そういえばリオンは隠れ甘党だし、実は食べたいと思っていたのかもしれないと考えたら笑いが込み上げてきた。
 その感情をアイスキャンディーを食べられる嬉しさに誤魔化してみたが、実は甘党なのを思い出したのがバレていたようだ。眉間に皺を寄せて睨むように私を見ていて、目が「皆に言うな」と言っている。部屋を出る間際に「分かってるよ」と目で返して皆を追い掛けた。
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