頂き物

□39℃
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随分前、リクオが風邪をひいたときにも
同様のことを言ったが
風邪とは万人誰しもがかかったことのあ
る病気と思う。
そしてことわざでもあるように風邪は
万病のもと
風邪だと思って軽く見ることは大変危険
なのである。それから忠告で、ヤツは知
らない間に人間に降りかかる。だからこ
そ厄介だ。



―――・・・



本日、今朝方に
浮世絵町の一角にあるアパートから女性
の唸り声がふとんから聴こえた。


「う〜ん・・・う〜・・・」


頬が真っ赤に染まる。
その理由といえば、まったくもって色気
のあるものではない。


ピピッと電子音が響き、
脇に挟んだ体温計をとりだすと数値は
37.0度と表示された。
彼女はそれを確認すると、右手で額に手
をやった。


微熱か・・・


言葉にすることもだるい。
頭に激痛が走り、まるで鈍器のようなも
ので殴られているかのようだ。イヤ、そ
んなもので殴られたら冗談なしで死んで
しまうだろうが。

あぁー・・・と、せっかく無理して起こした
上半身はうなだれる。
このまま寝てしまうのが身体にとって
は良いことなんだろうけど、仕事があ
るのだ。どうせ37度だ。冬だし、外を
歩いてるうちに熱が引いて行くだろう。



「ううー・・・あっ!!」


項垂れた身体を起こし、両頬をペチン
っと強く叩き、やる気を注入させた。
それからはいつものように布団をたた
み、部屋の隅においやり、パジャマを
着替え、奴良家へ向かうための準備を
おこなった。

朝食はどうも食べる気がしない。
玄関に飾られている鏡に顔だけ写せば
、目は潤み、頬は紅潮、それから口元
がだらしなく開いていた。アホ毛も垂
れ下がっており、パッと見ただけでも
元気がないことは一目瞭然だ。

とにかく奴良家の人たちに移らないよ
うにマスクだけでもして装備を完了さ
せる。
ドアを開けば、冷たい風が熱い頬を擦
った・・・・――――





―――・・・



「で、結局こんな状態なんだ・・・」


リクオは今日が休日で良かったよ、と
呆れた風にため息をついた。
驚いたろう。起きてから自室を出、顔
を洗いに行こうと洗面所に向かった矢
先に玄関口にて力なく倒れている見慣
れた知人がいたのだから。
ビクッと思わず身体を反応させる彼の
姿が容易に想像できる。

それから目を閉じたまま、荒い息遣い
で呼吸をする彼女をいったん客間に運
んだ。
途中、廊下で事態を確認した首無が彼
の行動を先回りして、布団をひいてい
てくれたので、そのまま寝かしつける
ことができた。



「も、申し訳ないです・・・
ココに来るまではなんとか気力で乗り
切りました・・・」


掛け布団を鼻のあたりまでもっていき
、氷嚢の間からチラリとリクオを盗み
見る。
風邪で名無しさんが普段より弱気な所為も
あるのかも知れないが、どこかほんの
り彼の後ろから怒りのオーラが滲みで
ているように感じる。


なんでそんな無理したの?
風邪をみくびっちゃいけないって、知
ってるはずだよね?
アレ?僕の体験いかされていない?


笑顔の裏にそんな言葉が隠れていると
は知らないだろう。
彼女はわずかに毛布を口元まで下ろし
て、小さく言葉する


「ごめんね・・・」

「え」


なんだろうかこの可愛い生物は・・・
高熱で目が潤んでいることをしって
いるのだろうか?
それでいて寝ているんだから、自然と
上目遣いになることを。
これって確信犯でやってるようにしか
思えないんだよね。
リクオはあらゆることに理由をつけて
、自分の理性がとばないようにと最終
判断で部屋をでることを選択した。


胡坐から足をたたせ、障子に手をかけ
ようとするが
ぎゅっと力なく掴まれたズボンのすそ
に目をやった。



「・・・・?」


「・・・・・・・あの・・・なに?」


「え・・・・あぁ、ごめん」


名無しさんの腕が布団から飛び出て
、リクオのズボンを掴んだのだ。
どしたのかと疑問視するも、逆に何故
止まっているのかと疑問符を浮かばれ
てしまう。止まった理由が分からない
のかと、彼女の無意識につかんだすそ
を指差し考えていることをそのまま口
にしてみた。


彼女も指差したほうに目をやり、虚ろ
な視界なまま謝ってくる。
けれど握られた手の力は緩むことを知
らずにいる。




 
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